[ChatStream] Transformer応答をモックする Transformer Mock

[ChatStream] Transformer応答をモックする Transformer Mock

こんにちは! (株)Qualiteg プロダクト開発部 です!

本稿では、モックデータの作成方法について説明します! これは正式には「Transformer Mock」と呼ばれている機能のためのもので、実際のLLM出力をレコーディングして再現するためのものです。

なぜこんなことが必要かというと、 LLM アプリのテスト(単体テストなど)で使用します。LLMアプリのテストをするとき、古典的な単体テストでは、入力に対して期待する出力は固定されていることが前提です。

ところがLLMはその特性上、同一の入力に対しても毎回異なる応答を返してきます。そこが生成AIの良いところですが古典的な単体テストをするときには悩んでしまいます。

ここで賢い読者の皆様は、同一の入力に対して、同一の出力を得たいなら、シードを固定すればいいじゃん。とお考えの方もいらっしゃるとおもいますが、シード値を固定して、入力を固定して、各種サンプリングパラメータを固定しても GPUの種類が異なると異なる出力を出してしまう、ということがわかっています。

これでは、GPUを変更したとたんに単体テストが通らなくなって困ってしまうため、それならば、あるGPUに対して入力した値と出力された値をレコーディングしておき、単体テストのときにはそのレコーディングした結果を「再現」することで疑似的にGPUの計算入力と計算結果を模すことができる、というのが本機能の発想となっております。

これにより、単体テストにおいても ChatStream 内コードの多くの部分を通る(1回のテストでのカバレッジがあがる)ため単体テストの信頼性を向上させることができます。

また、大型のモデルの読み込みには何十分もかかることもあり、nightly ビルドでCIしたとしても、本質的じゃない(そこはカバーしなくてよい)部分のために多くの時間をとられてしまうという課題もあり、そういった課題についても本機能によるエミュレーションで大幅に時間短縮することができます。

モックデータの作成方法

モデルを読み込まなくても、モデルと同じ応答を行わせることができる Mock モード(モックモード)について説明します。

Transformer Mockモードとは

事前に Model,Tokenizer への入力と出力のペアを記録し、それを再生することで
実際には Model,Tokenizer が無くても あたかも Model,Tokenizer があるかのように振る舞わせることができます。

このように Model,Tokenizer をエミュレーションするのが Mockモードです

Transformer Mockモードのメリット

  • モデルデータの読み込み時間が無い。
  • 再現性のある出力(AIアシスタントの応答)を得ることができる

ことで、モデルそのもの以外の評価やテストを手軽に用意に行うことができます

Generator Mockとの違い

類似の機能に Generator Mock があります。

Transfromer Mock モードは 実際のModel,Tokenizerの挙動を記録して再現するのにたいして Generator Mock は
入力を受け取った後、ダミーの文章で応答します。 Transformer Mock モードは決められた入力しか受け付けられませんが、Generator Mockはどのような入力でもダミーの文章で応答します。

Generator MockはAPIの挙動確認などで活用できますが、テストコード実行時のカバレッジは Transformer Mockモードに比べるとだいぶ低くなりますので、カバレッジを重視される場合は、Transformer Mockモードの使用がオススメです。

記録と再現

Transformer Mock モードのための記録 ~ Probeモード ~

厳密には Mock,Tokenizer の挙動を再現することを Transformer Mock モードと呼びます。
Mock,Tokenizer の挙動を記録するモードのことを Probe モードと呼びます。

以下のように probe_mode_enabled=True とすることで、 Probeモードが有効になります


chat_stream = ChatStream(
    num_of_concurrent_executions=2,
    max_queue_size=5,
    model=model,
    tokenizer=tokenizer,
    num_gpus=num_gpus,
    device=device,
    chat_prompt_clazz=ChatPrompt,
    add_special_tokens=False,
    max_new_tokens=128,
    context_len=1024,
    temperature=0.7,
    top_k=10,
    client_roles=client_role_free_access,
    locale='ja',
    token_sampler=TokenSamplerIsok(),
    seed=42,
    probe_mode_enabled=True,
)

probe_mode_enabled=True な状態で ChatStreamサーバーを起動し、UIからテキストの入力を行い
応答を生成します。このように普通にチャットを行うだけでその入力、応答が自動的に記録されます。

記録されたデータは以下ディレクトリに保存されます

 [home_dir]/.cache/chatstream/probe_data 

Transformer Mock モードで Model,Tokenizer をエミュレーション

MockTransformer をつかうと、記録されたデータをつかって Model,Tokenizer をエミュレーションすることができます

MockTransformer(parent_dir_path=[親ディレクトリ], dirname=[記録されたデータの保存されたディレクトリ名],
                wait_sec=[1トークン生成するたびに設定するウェイト(秒)])

[親ディレクトリ]を省略した場合は

 [home_dir]/.cache/chatstream/probe_data 

がディレクトリとして適用されます。

サンプルコード


mock_transformer = MockTransformer(parent_dir_path=mock_data_dir, dirname=mock_data_name, wait_sec=0)

model = mock_transformer.get_model() # model
tokenizer = mock_transformer.get_tokenizer() # tokenizer
token_sampler = mock_transformer.get_token_sampler() # サンプリングクラス

if device.type == 'cuda' and num_gpus == 1:
    model.to(device)

chat_stream = ChatStream(
    num_of_concurrent_executions=2,
    max_queue_size=5,
    model=model,
    tokenizer=tokenizer,
    num_gpus=num_gpus,
    device=device,
    chat_prompt_clazz=ChatPrompt,
    add_special_tokens=False,
    max_new_tokens=128,  # The maximum size of the newly generated tokens
    context_len=1024,  # The size of the context (in terms of the number of tokens)
    temperature=0.7,  # The temperature value for randomness in prediction
    top_k=10,  # Value of top K for sampling
    top_p=0.9,  # Value of top P for sampling,
    # repetition_penalty=1.05,
    client_roles=client_role_free_access,
    locale='ja',
    token_sampler=token_sampler,

)

これでChatStreamサーバーを起動するとTransformer Mockモードで動作します

注意

入力できるテキストや順序は、記録したときと同じテキストと順序となります

Read more

Pythonの落とし穴:__len__メソッドを実装したらオブジェクトの真偽値判定が変わってしまった話

Pythonの落とし穴:__len__メソッドを実装したらオブジェクトの真偽値判定が変わってしまった話

こんにちは! Pythonでカスタムクラスを作成していて、 「オブジェクトは存在するのにif文でFalseと判定される」 という不可解な現象に遭遇したことはありませんか? この記事では、__len__メソッドを実装することで生じる、予期しない真偽値判定の挙動について解説いたします! 実際に遭遇したバグ ユーザーの投稿を管理するクラスを実装していたときのことです class PostManager: """ブログ投稿を管理するクラス""" def __init__(self, user_id): self.user_id = user_id self._posts = [] self._cache = {} def __len__(self): """投稿数を返す""" return len(self._posts) def add_post(

By Qualiteg プロダクト開発部
CEATEC 2025に出展します!フォトリアルAIアバター「MotionVox🄬」の最新版を実体験いただけます

CEATEC 2025に出展します!フォトリアルAIアバター「MotionVox🄬」の最新版を実体験いただけます

株式会社Qualitegは、2025年10月14日(火)~17日(金)に幕張メッセで開催される「CEATEC 2025」に出展いたします。今回の出展では、当社が開発したフォトリアリスティックAIアバター技術「MotionVox🄬」をはじめ、最新のAI技術とビジネスイノベーションソリューションをご紹介いたします。 出展概要 * 会期:2025年10月14日(火)~10月17日(金) * 会場:幕張メッセ * 出展エリア:ネクストジェネレーションパーク * ブース番号:ホール6 6H207 * CEATEC内特設サイト:https://www.ceatec.com/nj/exhibitor_detail_ja?id=1915 見どころ:最先端AI技術を体感できる特別展示 1. フォトリアルAIアバター「MotionVox🄬」 テキスト入力だけで、まるで本物の人間のような動画を生成できる革新的なAIアバターシステムです。 MotionVox🄬は自社開発している「Expression Aware🄬」技術により日本人の演者データを基に開発された、

By Qualiteg ニュース
その処理、GPUじゃなくて勝手にCPUで実行されてるかも  ~ONNX RuntimeのcuDNN 警告と対策~

その処理、GPUじゃなくて勝手にCPUで実行されてるかも ~ONNX RuntimeのcuDNN 警告と対策~

こんにちは! 本日は、ONNX RuntimeでGPU推論時の「libcudnn.so.9: cannot open shared object file」エラーの解決方法についての内容となります。 ONNX Runtimeを使用してGPU推論を行う際、CUDAプロバイダの初期化エラーに遭遇することがありますので、このエラーの原因と解決方法を解説いたします。 エラーメッセージの詳細 [E:onnxruntime:Default, provider_bridge_ort.cc:2195 TryGetProviderInfo_CUDA] /onnxruntime_src/onnxruntime/core/session/provider_bridge_ort.cc:1778 onnxruntime::Provider& onnxruntime::ProviderLibrary::Get() [ONNXRuntimeError] : 1 : FAIL : Failed to load

By Qualiteg プロダクト開発部
大企業のAIセキュリティを支える基盤技術 - 今こそ理解するActive Directory 第3回 クライアントとサーバーのドメイン参加

大企業のAIセキュリティを支える基盤技術 - 今こそ理解するActive Directory 第3回 クライアントとサーバーのドメイン参加

こんにちは、今回はシリーズ第3回クライアントとサーバーのドメイン参加について解説いたします! はじめに こんにちは!シリーズ第3回「クライアントとサーバーのドメイン参加」へようこそ。 前回(第2回)では、Active Directoryドメイン環境の構築手順について、ドメインコントローラーのセットアップからDNS設定まで詳しく解説しました。ドメイン環境の「土台」が整ったところで、今回はいよいよ実際にコンピューターをドメインに参加させる手順に進みます。 「ドメインユーザーアカウントを作ったのに、なぜかログインできない」「新しいPCを追加したけど、ドメイン認証が使えない」といった経験はありませんか?実は、Active Directoryの世界では、ユーザーアカウントを作成しただけでは不十分で、そのユーザーが使用するコンピューター自体もドメインに「参加」させる必要があるのです。 本記事では、このドメイン参加について、単なる手順の説明にとどまらず、「なぜドメイン参加が必要なのか」「裏側で何が起きているのか」という本質的な仕組みまで、初心者の方にも分かりやすく解説していきます。Win

By Qualiteg コンサルティング