GPUリッチと日本の現状

GPUリッチと日本の現状
NVIDIA H100

世界的なGPU不足が深刻化しており、特に高性能なグラフィックスプロセッシングユニット(GPU)の確保が困難な状況に直面しています。この不足は、AI研究開発をはじめとする多くのテクノロジー業界に大きな影響を及ぼしており、企業や研究機関の間で新たな競争が生まれています。

GPU不足の現状

「GPUが非常に不足しているため、当社の製品を使用する人が少ないほど良いです」「GPUが不足しているため、当社の製品の使用量が減ってくれると嬉しいです」との声が業界内で聞かれるほど、GPUの調達は困難を極めています。

イーロン・マスクは、GPUの入手困難さを「麻薬よりも取得が難しい」と形容しています。

米国のビッグテックやメガベンチャーでは、GPUを万単位で確保しており、一例として1万台のGPUを確保するには約600億円の投資が必要とされています。これらの企業は、「GPUリッチ」と呼ばれるほどに、NVIDIAのA100やH100などの高性能GPUを大量に所有しています。

man in black framed sunglasses holding fan of white and gray striped cards

GPUリッチの影響

このGPUリッチな環境は、米国内でのAI研究開発競争を加速させています。ベイエリアのトップAI研究者たちは、GPUへのアクセスを自慢し、それが彼らの職場選びに大きな影響を与え始めています。Metaなどの企業は、採用戦術としてGPUリソースを活用しており、豊富な資金力により高性能のGPUを大量に確保し、競争に勝ちに行く戦略を取っています。

日本の状況

一方、日本では、国策とも言える産業技術総合研究所(産総研)のABCI(AI Bridging Cloud Infrastructure)でさえ、新モデルのH100は保有している気配は無く、旧式のGPUしか保有できていない状態です。このような状況は、日本が国際競争において不利な立場に立たされていることを示しており、どう頑張っても、小粒な日本語LLMしか作れない可能性があります。

(そもそも、日本語の言語リソースが英語のそれよりもずっと少ないという課題もあります)

日本の戦い方

日本がこのGPUリッチな環境においてどのように競争していくべきかは、重要な課題となっています。私たちは日本の企業や研究機関は、限られたリソースの中で、高度に最適化されたアルゴリズム、効率的なデータ処理、そして創造的な問題解決戦略を発見していくことと信じています。また当社のようなLLMプラットフォーム企業をハブとして活用していただくことで、相互のパートナーシップが生まれ、新しい技術の開発において力を結集することができるのではないでしょうか。そのためのネットワーキングの支援、事例共有なども積極的に行っていきたいとおもいます。つまり、米国が力で戦っているのにたいして、日本は技と技の結集で戦うというわけです。

LLMスタートアップには依然厳しい

その「技」を担う重要なプレイヤーとして、LLMを研究しているベンチャー・スタートアップという存在を忘れてはいけないでしょう。

彼らはさらに深刻で、GPU Poor ともいえるべき状況ではないでしょうか。たとえば、NVIDIA A100(80GB)は1台300万円、H100(80GB)は600万円以上します。 大学発スタートアップなどがエクイティ調達しようとすると例えばシード期 Post Valuation で数億円。実際の調達額はせいぜい数千万円となり、いまの日本のスタートアップエコシステムでの調達額では、高性能GPUを数枚買ったら枯渇してしまいます。

a close up of a sign in the dark

この業界は、とにかく GPUありきなので、従来のAASのように小さく生んで大きく育てられるビジネスモデルとコスト構造が決定的に違いますが、なかなかそれを説明して正しく理解していただくのは難しいという話を聞きます。また、仮に数億円調達できても、数億円程度ではとても”大規模な”LLMをトレーニングすることはできません。GPUクラウド環境も割高で、そもそも、学習をまわしてもうまくいく保証はないので何百万円かけてトレーニングしても成果無しということもよく起こり、なかなか厳しい状況です。このままでは運よくスポンサーをみつけたスタートアップや大企業にM&Aされたスタートアップ以外は打席に立つ前に淘汰されてしまうとおもいます。それが競争といえば競争かもしれませんが、せめて打席に立つ(GPU資源は気軽に使える)チャンスが必要でしょう。AWS による支援プログラムなど太っ腹な救済策?もはじまっていますが、より多くの挑戦者が打席に立つためには、豊富なGPU資源に”気軽に”アクセスできる環境が必要であり、「GPU使用無償化」の国策に期待したいところであります。これはまったく他人事ではなく、私たちもトレーニングほどの資源は使用しないものの、推論環境に必要な GPU資源 の確保に苦慮しており、心を同じくしております。

All you all need is GPU! (^_-)


Read more

Node.jsで大容量ファイルを扱う:AIモデルのような大きなデータ保存はストリーム処理使いましょう

Node.jsで大容量ファイルを扱う:AIモデルのような大きなデータ保存はストリーム処理使いましょう

こんにちは!今日はAIシステムのフロントサーバーとしてもよく使用するNode.jsについてのお話です。 AIモデルの普及に伴い、大容量のデータファイルを扱う機会が急増しています。LLMなどのモデルファイルやトレーニングデータセットは数GB、場合によっては数十、数百GBにも達することがあります。 一方、Node.jsはWebアプリケーションのフロントサーバーとして広く採用されており、データマネジメントやPythonで書かれたAIバックエンドとの橋渡し役としてもかなりお役立ちな存在です。 本記事では、Node.js v20LTSで5GB程度のファイルを処理しようとして遭遇した問題と、その解決方法について解説します。 Node.jsのバッファサイズ制限の変遷 Node.jsのバッファサイズ制限は、バージョンによって大きく変化してきました Node.jsバージョン サポート終了日 バッファサイズ上限 備考 Node.js 0.12.x 2016年12月31日 ~1GB 初期のバッファサイズ制限(smalloc.kMaxLength使用) Node.js 4.

By Qualiteg プロダクト開発部
AGI時代に向けたプログラマーの未来:役割変化とキャリア戦略

AGI時代に向けたプログラマーの未来:役割変化とキャリア戦略

はじめに 私がはじめてコードを書いたのは1989年です。 当時NECのPC88というパソコンを中古でかってもらい N-88 Basic というBASIC言語のコードをみようみまねで書いて動かしたあの日から何年経つのでしょうか。 当時、電波新聞社のマイコンBASICマガジンという雑誌があり、ベーマガにはいろんなパソコン向けのプログラムコードが掲載されていました。 そんなわけでもう35年以上趣味や仕事でプログラミングに従事していますが、開発環境、情報流通の仕組みには革命といっていいほどの変化、進化がおこりました。 しかしながら、そんな中でも、あくまでコードを書くのは「私」という生身の人間でした。 そうしたある種の古き良き時代は、いよいよ本格的に終わりを告げようとしています。 2023年ごろからのLLM技術の飛躍的進歩により、プログラミング業界は大きな転換期を迎えています。 特に、OpenAI o3,o1やClaude 3.5、Gemini2.0などの大規模言語モデル(LLM)の進化や、その先にある将来的な汎用人工知能(AGI)の出現は、プログラマーやAIエンジニアの役割に根

By Tomonori Misawa / CEO
PythonとWSL開発のトラブルシューティング: PyCharmとCondaの環境不一致問題

PythonとWSL開発のトラブルシューティング: PyCharmとCondaの環境不一致問題

こんにちは! 今回は、WSL上のConda環境をPyCharmから利用する際に発生した「同じ環境なのにパッケージリストが一致しない」という問題に遭遇したため、その原因と対策について書いてみたいとおもいます 問題の状況 開発の流れは以下のようなものでした 1. WSL環境でConda仮想環境を作成 2. その環境をPyCharmのプロジェクトインタプリタとして設定 3. 開発を進める中で奇妙な現象に気づく 具体的には、次のような不一致が発生していました * PyCharmのプロジェクト設定で表示されるpipパッケージのリスト * WSLでConda環境をアクティベートした後にpip listコマンドで表示されるパッケージのリスト これらが一致せず、「WSL側のシェルから直接インストールしたパッケージがPyCharmで認識されない」という問題が生じていました。 この手の問題でよくある原因は、PyCharm側がWSL側の更新を得るのに少し時間がかかったり、 Indexing が遅れているなどなのですが、今回はそれが原因ではありませんでした。 危険な「静かな

By Qualiteg プロダクト開発部
人気ゲーム「ヒット&ブロー」で学ぶ情報理論

人気ゲーム「ヒット&ブロー」で学ぶ情報理論

こんにちは! Qualiteg研究部です! 今日はAIにおいても非常に重要な情報理論について、Nintendo Switchの人気ゲーム「世界のアソビ大全51」にも収録されている「ヒット&ブロー」というゲームを題材に解説いたします! はじめに 論理的思考力を鍛える定番パズルゲームとして長年親しまれている「ヒット&ブロー」(海外では「Mastermind」として知られています)。 このゲームは一見シンプルながらも、その攻略には深い論理的アプローチが必要とされております。 本稿では、このゲームについて情報理論という数学的概念を用いてゲームの素性を分析する方法について掘り下げてみたいとおもいます。 さらに、この情報理論が現代の人工知能(AI)技術においてどのように活用されているかについても触れていきます。 ヒット&ブローのルール説明 ヒット&ブローは、相手が秘密に設定した色や数字の組み合わせを推測するゲームです。日本では主に数字を使った「数当てゲーム」として親しまれていますが、本記事では色を使ったバージョン(マスターマインド)に焦点を当てます。 Nintendo Sw

By Qualiteg 研究部