[AI数理]徹底的に交差エントロピー(5)

[AI数理]徹底的に交差エントロピー(5)

おはようございます!(株) Qualiteg 研究部です。

今回は、前回から拡張して データN件対応版の多値分類用 交差エントロピー を実際のデータをみながら導いていきたいとおもいます!

6章 多値分類用 交差エントロピー (データN件対応版)

実際の学習では、いちどに複数件の訓練データを入力して得られた複数の結果をまとめて評価するバッチ学習を行うため、複数の訓練データから得られた結果を同時に計算できるバージョンの交差エントロピーも考えておきます。

以下のような複数の訓練データの場合を考えます。

複数の訓練データなので、1件ずつの訓練データを見分けられるように番号をふった データ番号 列を導入しました。みやすくするため正解のデータに背景色をつけています。

この4件のデータを順番にモデルに入れたときの出力を計算すると以下のようになりました。予測値 列を右に追加しています。

さて、この4件の交差エントロピーを求めてみます。

これらのデータから1つずつ交差エントロピーを計算して、その値を合計すれば、4件ぶんの交差エントロピーの合計値を求めることができるので、特に難しいことはなく、1件ずつの交差エントロピーを計算して合計したいとおもいます。

まずは愚直に計算してみます。

1件目のデータの交差エントロピーを計算

1件目のデータの交差エントロピー は以下のようになります。ここで データ番号がわかるように、交差エントロピー \(E\) は \(E_{1}\) としました。

$$
\begin{aligned}
\ E_{1} = &- \sum_{k=1}^{K} t_{k} \log y_{k} &\
&= - ( t_{1} \log y_{1} + t_{2} \log y_{2} + t_{3} \log y_{3}) & \
&= - ( 1 \cdot \log 0.33 + 0 \cdot \log 0.32 + 0 \cdot \log 0.35) \
&= \log 0.33 = -0.481486 \
\
&K:分類の数, t_{k}:正解ラベル, y_{k}:モデルが計算した予測値&
\end{aligned}
$$

2件目のデータの交差エントロピーを計算

同様に、 \(E_{2}\) を計算すると、

$$
\begin{aligned}
\ E_{2} = &- \sum_{k=1}^{K} t_{k} \log y_{k} &\
&= - ( t_{1} \log y_{1} + t_{2} \log y_{2} + t_{3} \log y_{3}) & \
&= - ( 0 \cdot \log 0.30 + 1 \cdot \log 0.36 + 0 \cdot \log 0.34) \
&= \log 0.36 = -0.443697 \
\end{aligned}
$$

3件目のデータの交差エントロピーを計算

同様に、 \(E_{3}\) を計算すると、

$$
\begin{aligned}
\ E_{3} = &- \sum_{k=1}^{K} t_{k} \log y_{k} &\
&= - ( t_{1} \log y_{1} + t_{2} \log y_{2} + t_{3} \log y_{3}) & \
&= - ( 0 \cdot \log 0.37 + 0 \cdot \log 0.31 + 1 \cdot \log 0.32) \
&= \log 0.32 = -0.494850 \
\end{aligned}
$$

4件目のデータの交差エントロピーを計算

同様に、 \(E_{2}\) を計算すると、

$$
\begin{aligned}
\ E_{4} = &- \sum_{k=1}^{K} t_{k} \log y_{k} &\
&= - ( t_{1} \log y_{1} + t_{2} \log y_{2} + t_{3} \log y_{3}) & \
&= - ( 0 \cdot \log 0.34 + 1 \cdot \log 0.33 + 0 \cdot \log 0.33) \
&= \log 0.34 = -0.46852 \
\end{aligned}
$$

具体的な値を入れてみましょう。さきほどのデータ番号 \(i=1\) のデータでみてみましょう。

$$
\begin{aligned}
\boldsymbol{E_{1}} = &- \boldsymbol{t} \cdot \log (\boldsymbol{y})& \
=& -
\begin{pmatrix}
t_{1} \ t_{2} \ t_{3}
\end{pmatrix}
\log
\begin{pmatrix}
y_{1} \ y_{2} \ y_{3}
\end{pmatrix}
&
\\
=& -
\begin{pmatrix}
1 \ 0 \ 0
\end{pmatrix}
\log
\begin{pmatrix}
0.33 \ 0.32 \ 0.35
\end{pmatrix}
&
\\
=& -
\begin{pmatrix}
\log(0.33) \ 0 \ 0
\end{pmatrix}
&
\\
=&
\begin{pmatrix}
-0.481486 \ 0 \ 0
\end{pmatrix}
&
\end{aligned}
$$

さて、1件ずつ計算した4件ぶんの交差エントロピー \(E_{1}\)、\(E_{2}\)、\(E_{3}\)、\(E_{4}\) を合計したものが、4件ぶんの合計交差エントロピーとなります。これを \(E_{sum}\) とすると、

$$
E_{sum} = E_{1} + E_{2} +E_{3} +E_{4}
$$

これを \(\sum\) で表現すると、データ番号を \(i\) として

$$
E_{sum} = \sum_{i=1}^4 E_{i}
$$

となります。

今はデータ件数が 4件でしたが、これを \(N\) 件と一般化すると、

$$
E_{sum} = \sum_{i=1}^N E_{i} \tag{6.1} 
$$

となりますね。

ところで、もともと \(t_{k}\) や \(y_{k}\) は、分類番号を添え字につけており、今回だと「イヌ」「キツネ」「オオカミ」の3つに分類をしたかったので、 \(k={1},k=2,k=3\) としていました。
これは1件ぶんのデータ用としてはこれでよかったのですが、いまは 4件のデータがあるので、 \(t_{k}\) と \(t_{k}\) を一意に特定できるようにするため、データ番号 \(i\) を添え字として追加します。

具体的には以下のように \(t_{k}\) → \(t_{ik}\) 、 \(y_{k}\) → \(y_{ik}\) のように拡張しました。

これで、

  • \(t_{ik}\) は 訓練データの \(i\) 番目のデータの \(k\) 番目の要素
  • \(y_{ik}\) は 訓練データの \(i\) 番目のデータを入力したときのモデルの出力(予測値)の \(k\) 番目の要素

という意味となります。

よって \(i\) 番目のデータの 交差エントロピーは 式 \((5.2)\) に 添え字 \(i\) のを追加した以下のようになります。

$$
E_{i} = - \sum_{k=1}^{K} t_{ik} \log y_{ik} \tag{6.2}
$$

\(式(6.1)\) より

$$
\begin{aligned}
E_{sum} =& \sum_{i=1}^N E_{i} &\
\end{aligned}
$$

なので、データ N 件分を合計した交差エントロピーの合計は以下のようになります。

$$
\begin{aligned}
E_{sum} = & - \sum_{i=1}^N \sum_{k=1}^{K} t_{ik} \log y_{ik} &\
\end{aligned}
$$

上式は \(N\) 件分の合計値ですが、件数が異なっても比較できるように N で割って交差エントロピー \(E_{i}\) の平均をとり、 バッチ版つまり複数データ対応バージョンの交差エントロピー関数 \(E\) は以下のように定義されます。

$$
E = - \frac{1}{N} \sum_{i=1}^N \sum_{k=1}^{K} t_{ik} \log y_{ik} \tag{6.3}
$$

$$
\begin{aligned}
\
& N:データ件数& \
&i:データ番号& \
&K:分類の数& \
&k:分類番号& \
&t_{ik}: i 番目のデータの k 番目の正解ラベル(教師データ)& \
&y_{ik}:i 番目の入力データの出力のうち k 番目 予測値& \
\end{aligned}
$$

ようやく、冒頭に紹介した多値分類用の交差エントロピー関数が定義できました。これを英語では Categorical Cross Entropy と呼びます

今回はいかがでしたでしょうか

無事、データN件対応版の多値分類用 交差エントロピー を導くことができました。
次回は、 二値分類用の交差エントロピーを導いていきたいと思います。


参考文献
https://blog.qualiteg.com/books/


navigation

Read more

【出展報告】ASCII STARTUP TechDay 2025

【出展報告】ASCII STARTUP TechDay 2025

こんにちは! 本日、「ASCII STARTUP TechDay 2025」に出展してまいりましたのでレポートさせていただきます! ASCII STARTUP TechDay 2025 ASCII STARTUP TechDay 2025は、2025年11月17日(月)に東京・浅草橋ヒューリックホール&カンファレンスで開催された、ディープテック・スタートアップのエコシステム構築をテーマにした展示交流・カンファレンスイベントです。 秋の展示会は本当にいいですね 本日はとてもよいお天気で、涼しくて、展示会にはピッタリの気候で朝からルンルンでした。しかも午後からの展示会ということで、気持ちに余裕をもって朝の業務をこなしていたところ、けっこうすぐに昼前になり、あわてて現場へ。 浅草橋は当社からもわりと近いという立地の良さを甘く見ておりましたが💦、なんとか予定時刻前に到着しました。やっぱり、都心開催は本当にありがたいですね。 会場へ急いでいると、おなかが「ぐ~」と鳴り 「そういえば、朝食まだだったわ」 とおもったところに、なんと私の大好きなエッセンさん🍞のトラックがあるで

By Qualiteg ビジネス開発本部 | マーケティング部
サブスクビジネス完全攻略 第1回~『アープがさぁ...』『チャーンがさぁ...』にもう困らない完全ガイド

サブスクビジネス完全攻略 第1回~『アープがさぁ...』『チャーンがさぁ...』にもう困らない完全ガイド

なぜサブスクリプションモデルが世界を変えているのか、でもAI台頭でSaaSは終わってしまうの? こんにちは! Qualitegコンサルティングです! 新規事業戦略コンサルタントとして日々クライアントと向き合う中で、ここ最近特に増えているのがSaaSビジネスに関する相談です。興味深いのは、その背景にある動機の多様性です。純粋に収益モデルを改善したい企業もあれば、 「SaaS化を通じて、うちもデジタルネイティブ企業として見られたい」 という願望を持つ伝統的な大企業も少なくありません。 SaaSという言葉が日本のビジネスシーンに本格的に浸透し始めたのは2010年代前半。それから約15年が経ち、今やSaaSは「先進的な企業の証」のように扱われています。 まず SaaSは「サーズ」と読みます。 (「サース」でも間違ではありません、どっちもアリです) ほかにも、 MRR、ARR、アープ、チャーンレート、NRR、Rule of 40…… こうした横文字が飛び交う経営会議に、戸惑いながらも「乗り遅れてはいけない」と焦る新規事業担当者の姿をよく目にします。 しかし一方で、2024

By Qualiteg コンサルティング
ASCII STARTUP TechDay 2025に出展します!

ASCII STARTUP TechDay 2025に出展します!

株式会社Qualitegは、2025年11月17日(月)に東京・浅草橋ヒューリックホール&カンファレンスで開催される「ASCII STARTUP TechDay 2025」に出展いたします。 イベント概要 「ASCII STARTUP TechDay 2025」は、日本のディープテックエコシステムを次のレベルへ押し上げ、新産業を創出するイノベーションカンファレンスです。ディープテック・スタートアップの成長を支えるエコシステムの構築、そして成長・発展を目的に、学術、産業、行政の垣根を越えて知を結集する場として開催されます。 開催情報 * 日時:2025年11月17日(月)13:00~18:00 * 会場:東京・浅草橋ヒューリックホール&カンファレンス * 住所:〒111-0053 東京都台東区浅草橋1-22-16ヒューリック浅草橋ビル * アクセス:JR総武線「浅草橋駅(西口)」より徒歩1分 出展内容 当社ブースでは、以下の3つの主要サービスをご紹介いたします。 1.

By Qualiteg ニュース
大企業のAIセキュリティを支える基盤技術 - 今こそ理解するActive Directory 第4回 プロキシサーバーと統合Windows認証

大企業のAIセキュリティを支える基盤技術 - 今こそ理解するActive Directory 第4回 プロキシサーバーと統合Windows認証

11月に入り、朝晩の冷え込みが本格的になってきましたね。オフィスでも暖房を入れ始めた方も多いのではないでしょうか。 温かいコーヒーを片手に、シリーズ第4回「プロキシサーバーと統合Windows認証」をお届けします。 さて、前回(第3回)は、クライアントPCやサーバーをドメインに参加させる際の「信頼関係」の確立について深掘りしました。コンピューターアカウントが120文字のパスワードで自動認証される仕組みを理解いただけたことで、今回のプロキシサーバーの話もスムーズに入っていけるはずです。 ChatGPTやClaudeへのアクセスを監視する中間プロキシを構築する際、最も重要なのが「確実なユーザー特定」です。せっかくHTTPS通信をインターセプトして入出力内容を記録できても、アクセス元が「tanaka_t」なのか「yamada_h」なのかが分からなければ、監査ログとしての価値は半減してしまいます。 今回は、プロキシサーバー自体をドメインメンバーとして動作させることで、Kerberosチケットの検証を可能にし、透過的なユーザー認証を実現する方法を詳しく解説します。Windows版Squid

By Qualiteg AIセキュリティチーム