PIIの高精度検出を支える技術~日本語という言語の奥深さに寄り添う~

PIIの高精度検出を支える技術~日本語という言語の奥深さに寄り添う~

こんにちは、Qualiteg研究部です!
本日はPII(個人識別情報)検出技術について解説いたします。

グローバルツールと日本語特化ツールの共存

個人情報保護は世界共通の課題です。
GDPR、CCPA、そして日本の改正個人情報保護法など、世界中で規制が強化される中、多くの優れたPII(個人識別情報)検出ツールが研究・開発されていますが、日本語を中心としたビジネスシーンで利用しようとすると「おや?」っとなることが多く割と無視できない規模の追加開発、特別対応による追加工数が発生することがあります。なぜなら、それらツールは英語(および英語文化圏)を中心に設計されており、スペック上は日本語も対応言語の1つとして挙げられておりますがきめ細やかな対応が後手にまわることが多いです。
当然ですが言語には固有の文化と構造があり日本語は、その独特な文字体系と文化的背景により、特別なアプローチが必要となるシーンが存在しています。

私たちが開発している日本語特化型PII検出技術は、グローバルに採用されている優れた基盤技術も活かし共存ながら、日本語の特性に深く寄り添うことで、日本企業により実用的なソリューションを提供したいと考えています。

日本語という言語の美しさと複雑さ

世界でも稀な多層的文字体系

日本語の最大の特徴は、複数の文字体系が調和して機能することです。
ひらがな、カタカナ、漢字、そしてローマ字と数字。これらが有機的に組み合わさることで、豊かな表現力を生み出しています。

例えば、一つの企業名でも多様な表記が可能です:

正式名称:株式会社国際情報技術研究所
略称1:KJK研究所
略称2:ケージェーケー研究所
英語表記:KJK Research Institute Corporation
株式表記:(株)KJK研究所
通称:国際情報研

これらは全て同じ組織を指していますが、文脈や用途によって使い分けられます。この柔軟性は日本語の強みであると同時に、コンピューターによる処理を困難にする要因でもあります。

文脈が意味を決定する言語

日本語では、同じ単語でも文脈によって全く異なる意味を持ちます。そして、文脈なしには何を指しているか判断できないケースが多々あります。

「三沢」という文字列を考えてみましょう:

  • 「三沢から連絡がありました」→ うちの社員の人名?会社名?不明
  • 「三沢に行ってきます」→ 米軍基地のある町の地名?人のところ?店?不明
  • 「三沢で購入しました」→ 三沢商店のこと店名?人名(から購入)?不明

英語であれば:

  • "I got a call from Mr. Misawa"(人名)
  • "I'm going to Misawa City"(地名)
  • "I bought it at Misawa's"(店)

のように、前置詞や冠詞、所有格などで明確に区別されます。

さらに深刻な例として、助詞「の」の多義性があります

「東京の会社」

  • 東京にある会社(所在)
  • 東京という名前の会社(名称の一部)
  • 東京が所有する会社(所有)
  • 東京に関する会社(関連)

英語なら、

  • "company in Tokyo"
  • "Tokyo Company"
  • "Tokyo's company"
  • "company about Tokyo"

と明確に区別されますが、日本語では文脈なしには判断不可能です。

特に困難なのは、省略が多い日本語の特性です

「昨日会った。とても良い人だった。」
→ 誰に会った?主語が省略されている

「資料を送ってください。」
→ 誰に?どの資料?多くが省略されている

「承知しました。対応します。」
→ 何を承知?何に対応?文脈依存

このような日本語の特性により、PII検出では前後の文脈を広く見る必要があります。

敬語システムが提供する豊富な情報

日本語の敬語システムは、単なる礼儀の問題ではありません。それは、話者間の関係性、社会的地位、状況の公式度など、多層的な情報を含んでいます。

「山田が来ました」→ 同僚か部下
「山田さんが来ました」→ 一般的な敬意
「山田様がいらっしゃいました」→ 顧客や上位者
「山田先生がお見えになりました」→ 専門家や恩師

この敬語の使い分けは、PIIの検出と匿名化において貴重な手がかりとなります。敬称の種類によって、その人物の立場や、どの程度の匿名化が必要かを判断できるのです。

日本語特化アプローチの技術的優位性

さて、いままでもみてきましたが、ひと口にPII検出といっても、実用的な技術開発するためには単にNLP系ライブラリを組み合わせればいいとか大量のデータをつかって機械学習すればy良いといったことではなく、まず日本のコミュニケーション文化、ビジネス慣習への深い理解が必要になります。

文化的洞察に基づく検出ロジック

敬称駆動型検出の革新性

たとえば、日本のビジネス文書では、人名に敬称を付けないことは極めて稀です。この文化的特性を活用した「敬称駆動型検出」は、単純ながら強力なアプローチです。

# 検出ロジックの概念
if 敬称が存在:
    if 前の文字列が日本人名パターンに合致:
        信頼度 = 0.95
    elif カタカナのみ:
        if 文字数が適切:
            信頼度 = 0.85
        else:
            追加の文脈チェック

しかし、これは単純な文字列マッチングではありません。

「お客様」「皆様」などの一般的な敬称表現と、個人を指す敬称を区別する必要があります。
たとえば、私たちは以下のような多層的なフィルタリングをつかった検出技術を開発しています

  1. 形態的フィルタリング:文字種、文字数、配置パターン
  2. 統計的フィルタリング:日本人の姓名データベースとの照合
  3. 文脈的フィルタリング:前後の助詞、動詞、文の構造
  4. 除外リスト適用:ビジネス文書でよく使われる定型表現の除外

日本の住所体系への完全対応

次は日本の住所表記をみてみましょう。

完全表記:〒100-0001 東京都千代田区千代田1丁目1番1号 ABCビル15階
番地省略:東京都千代田区千代田1-1-1 ABCビル15F
都道府県省略:千代田区千代田1-1-1
建物名のみ:ABCビル(文脈から住所と判断)

階層構造と多様な表記法が特徴です。
さらに、住所というのは奥深くて、地番表記があったり、歴史的な変遷で住所の「切り方」のルールが地域ごとに異なったりします。
たとえば当社の所在する 千代田区鍛冶町 は以前は 千代田区神田鍛冶町 でしたし、鍛冶町は町名ではなく、町名は「鍛冶町一丁目」 だったりします。これは、一見「どうでもいいじゃん」とおもうかもしれませんが、実際は地域特定や検索の高速化のため、より実務的なところだと、DBのどのカラムにおさめるか、など地味に重要だったりします。

さて、私たちは、これらのバリエーションを包括的にカバーする階層的パターンマッチングを実装しています

住所検出の階層構造の例
レベル1: 郵便番号(〒マークまたは7桁数字)
レベル2: 都道府県(47都道府県の完全リスト)
レベル3: 市区町村(変則的な読みも含む)
レベル4: 番地(多様な表記法に対応)
レベル5: 建物名(ビル、マンション、号室)

また、京都の通り名を使った住所(「四条通河原町上る」)のような、地域特有の表記法にも順次対応しています。

PII検出技術とトレードオフ

さて、ここからはPII検出技術の現実解について考えていきましょう。

処理速度と検出精度のインテリジェントなバランス

当然ですが、やろうとおもえば、技術的にはいくらでも精度を追求することができます。
ですが、実際のビジネスシーンでは、「完璧だが遅い」システムは使い物になりません。用途、目的、セキュリティ基準に応じて速度と精度のバランスを柔軟に調整する必要があります。

以下に、実際のPII検出で使用される技術について、スピード&性能のトレードオフについてレベル1(軽量高速なパターンマッチ)~レベル5(低速だが高精度・高性能)の5段階でみていきましょう。

レベル1:超高速スキャンモード(数万件~/秒)

技術基盤:正規表現による高速パターンマッチング

特徴

  • メモリ使用量:最小
  • 検出対象:明確なパターンを持つPII

このモードは、大量のログファイルやデータベースダンプの初期スクリーニングに最適です。電話番号、メールアドレス、クレジットカード番号など、形式が明確な情報を瞬時に検出します。

適用例

  • Webサーバーのアクセスログ分析
  • データベースの定期監査
  • LLM等のリアルタイムストリーム処理

レベル2:バランスモード(数千件~/秒)

技術基盤:形態素解析エンジン+ ルールベース推論

特徴

  • 日本語の文法構造を理解
  • 品詞情報を活用した文脈判断
  • カスタム辞書による拡張性と最新キーワード対応

形態素解析により、文を意味のある単位に分解します

入力:「営業部の田中部長から連絡がありました」
形態素解析結果:
営業[名詞] 部[接尾] の[助詞] 田中[固有名詞] 部長[名詞] から[助詞] 
連絡[名詞] が[助詞] あり[動詞] まし[助動詞] た[助動詞]

この解析により、「田中」が固有名詞であり、「部長」という役職と結びついていることから、人名である可能性が高いと判断できます。

適用例

  • 日次バッチ処理
  • ドキュメント管理システム
  • メール監査システム

レベル3:高精度NERモード(数百件~/秒)

技術基盤:spaCy/GiNZA + 条件付き確率場(CRF)or BiLSTM-CRF

このレベルでは、単純なパターンマッチングを超えて、機械学習による高度な固有表現認識(NER: Named Entity Recognition)を実現します。

spaCyとGiNZAとは

spaCyは、産業利用を前提とした高速な多言語NLP(自然言語処理)ライブラリです。そして、spaCy日本語の精度を大幅に向上させたのがGiNZAです。GiNZAは、国立国語研究所とリクルート社が共同開発した日本語解析器をspaCyで使えるようにしたもので、日本語の複雑な文法や表記に対応しています。

CRF(条件付き確率場)とは

CRF(Conditional Random Fields)は、系列ラベリング問題を解く機械学習手法です。文章中の各単語に対して、「これは人名」「これは組織名」といったラベルを付ける際に使われます。BiLSTM-CRF(Bidirectional LSTM-CRF)は、深層学習とCRFを組み合わせた、より高度な手法です。

特徴

  • 文全体の構造を考慮
  • 機械学習による柔軟な判定
  • 新しいパターンへの適応力

NER(固有表現認識)は、文章を読んで意味を理解するAI技術です

入力:「来週の火曜日に大阪支社で新製品の説明会があります」
NER出力:
- 来週の火曜日 → 日時表現
- 大阪支社 → 組織名
- 新製品の説明会 → イベント

さらに、私たちの日本語コンテキスト強化器が、日本語特有の曖昧性を解決します

# コンテキスト強化の例
基本検出:「大阪」→ 地名(信頼度: 0.7)
コンテキスト分析:「大阪」+「支社」→ 組織名の一部(信頼度: 0.95

適用例

  • 契約書・法的文書の処理
  • 顧客対応記録の分析
  • 品質保証のための全文検査

レベル4:Transformerベース深層学習モード(100件/秒)

技術基盤:RoBERTa/DeBERTa日本語モデル + ファインチューニング

特徴

  • 文書全体の文脈を深く理解
  • 長距離依存関係の把握
  • 暗黙的な情報の推論

Transformerアーキテクチャの革新性は、なんといっても「注意機構(Attention Mechanism)」にあります。これにより、文の離れた部分の関係も正確に理解できます。

例文:「先月お問い合わせいただいた件について、弊社の技術担当である山田から
      回答させていただきます。なお、詳細な仕様については、来週お伺いする
      際に改めてご説明いたします。」

従来のNER:
- 山田 → 人名(ローカルな文脈のみ)

RoBERTa/DeBERTa:
- 山田 → 人名(自社の技術担当者)
- お伺いする主語 → 山田(文脈から推論)
- 敬語レベル → 顧客向け文書と判定

DeBERTaの技術的優位性

  1. Disentangled Attention(分離注意機構)
    • 単語の位置情報と内容情報を分離して処理
    • 日本語の語順の柔軟性に対応
  2. Enhanced Mask Decoder(強化マスクデコーダー)
    • 助詞や敬語などの機能語をより正確に理解
    • 省略された主語や目的語の推定精度向上
  3. 相対位置エンコーディング
    • 長文でも文の構造を正確に把握
    • 複雑な敬語表現の階層を理解

最適化技術
さらに、私たちの得意分野である、以下のような最適化技術を適用することで、「高精度だが軽量」の実現を目指しています。

  • 量子化によるモデルサイズ削減
  • 動的バッチングによるGPU利用効率向上
  • 知識蒸留による軽量モデルの作成

適用例

  • 機密文書の最終チェック
  • コンプライアンス監査
  • 法的リスクの高い文書の処理

レベル5:大規模言語モデル統合モード(10件/秒)

技術基盤:LLM(大規模言語モデル)統合

特徴

  • 人間レベル(またはそれ以上の)の言語理解
  • 文脈を超えた推論能力
  • 業界特有の表現への対応

LLMを使ったPII検出・匿名化は、従来の手法とは根本的に異なるアプローチです。ルールベースや機械学習ベースの手法が「パターンを見つける」のに対し、LLMは「文章を理解する」ことができます。

このモードでは、最新のLLM技術を活用し、従来の手法では検出困難な複雑なケースに対応します

例文:「先日お話しした例の件ですが、Kさんから連絡があり、
      あちらの責任者は前向きに検討しているとのことです。
      ただ、例の数字については、もう少し時間が必要だそうです。」

従来の手法:
- Kさん → イニシャルとして検出(可能)
- あちらの責任者 → 検出困難
- 例の数字 → 検出不可能

LLMの理解:
- Kさん → 人物(イニシャル表記)
- あちらの責任者 → 特定の人物を指す(文脈から推測)
- 例の数字 → 機密性の高い情報(金額、コード等)の可能性
- 全体の文脈 → ビジネス交渉に関する機密情報

LLMは、略語、専門用語、暗黙の参照関係なども理解し、適切な匿名化レベルを提案します。

適用例

  • 取締役会議事録
  • M&A関連文書
  • 重要な法的契約書
  • インシデント発生時の詳細分析

「日本語という言語の美しさと複雑さ」から始まったこの技術解説も、いよいよ終わりに近づいてきました。

私たちがこの記事でお伝えしたかったのは、単なる技術仕様の羅列ではありません。日本語という言語が持つ独特の文化的背景と、それに真摯に向き合うことで生まれる技術革新の可能性です。

まとめ

本稿では、日本語特化型PII検出技術について、その必要性から実装戦略まで幅広く解説してきました。

グローバルツールの多くは英語圏を前提に設計されており、日本語の複雑な文字体系(ひらがな・カタカナ・漢字・ローマ字の混在)や、文脈に依存する意味解釈、敬語システムといった特性に十分対応できていません。「三沢」が人名なのか地名なのか店名なのか、「東京の会社」が所在地を指すのか会社名の一部なのか、こうした判断は文脈なしには不可能です。そこで私たちは、日本語の特性にあわせた効率的な検出手法を開発しました。敬称駆動型検出では、「様」「さん」といった敬称を手がかりに人名を特定し、階層的パターンマッチングで日本の複雑な住所表記に対応しています。個々の技術は何10年という日本語の自然言語処理技術をベースとしつつもそれらを効率的に組み合わせビジネスシーンに高度に順応できるように開発をしています。その実装面では、処理速度と検出精度のトレードオフを考慮した5段階のアプローチで整理しました。レベル1の正規表現による高速スキャン(数万件/秒)から、レベル5のLLM統合モード(10件/秒)まで、データの重要度に応じて適切な処理レベルを選択できます。これにより、日常的なログ処理から機密文書の精査まで、幅広いニーズに対応可能です。

次回は、

LLM活用における段階的PIIマスキングの実装 次回は「LLM活用における段階的PIIマスキングの実装」と題して、今回ご紹介した5段階のPII検出技術が、実際のLLM活用シーンでどのように機能するのかを解説します。

特に、PowerPoint、Excel、PDF、画像ファイルなど、様々なファイル形式に潜む「見えないPII」をどう検出し、安全にLLMを活用するかについて、具体的な事例を交えながらご紹介する予定です。

「スライドは問題なさそうだけど、スピーカーノートは大丈夫?」「非表示のExcelシートにも機密情報が?」といった、ファイル処理特有の落とし穴と対策について詳しく解説します。

それではまた次回お会いしましょう!


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