[ChatStream] ChatPrompt の実装

[ChatStream] ChatPrompt の実装

ChatPrompt とは

こんにちは! (株)Qualiteg プロダクト開発部 です!

本稿では、 ChatPrompt の具体的な実装方法をご紹介いたします!

ChatPrompt とは、事前学習済言語モデル(以降、モデル)用のプロンプトを生成するためのクラスです。プロンプトクラスと呼びます。

たとえば、 redpajama-incite の場合は以下のようなプロンプトをつくり、モデルに入力します。

<human>: Who is Alan Turing
<bot>:

すると、モデルは続きの文章を生成し、以下を出力します。

<human>: Who is Alan Turing
<bot>: He was a very honorable man.

この例では <human><bot> の後に : が続き、\n で区切られています。

こうしたルール、お作法はモデルごとに微妙に異なっています。

このプロンプトの生成や会話履歴の保持を行うクラスが ChatPrompt で、 プロンプトクラス と呼びます。

前述の通り、モデルごとにお作法が違うので、モデルごとの プロンプトクラス が必要になります。

プリセット プロンプトクラス

ChatStream では、いくつかの有名なモデルについてはプロンプトクラス = ChatPromptクラス を準備しています。

プロンプトクラスの自作

新しいモデルなど、まだプロンプトクラスが無い場合は自作することができます。

ChatPrompt プロンプトクラスの実装

プロンプトクラスの役割は以下のとおりです

  • 1. ユーザーの入力や、これまでの会話履歴をもとにモデル用のプロンプトを出力する
  • 2. 文章を適切に生成するため、
    • 2-1. 文章生成を停止する特殊トークンを情報を持つ
    • 2-2. 特定のトークンの変換情報を持つ

プロンプトはモデルごとにお作法が異なるので、そのお作法の違いを実装します

といっても、基本は文章の連結ルールを定義するだけなので難しくありません

プロンプトクラスの基底クラスのインポート

プロンプトクラスのもととなる、 AbstractChatPrompt クラスをインポートします

from chatstream import AbstractChatPrompt

基底クラスのオーバーライド

AbstractChatPrompt クラスは抽象クラスなので、必要なメソッドをオーバーライドしていきます

以下は rinna/japanese-gpt-neox-3.6b-instruction-sft 用のプロンプトクラスの実装例です

このモデルでは、以下のようなプロンプトのフォーマットを出力することが目的です

ユーザー: 日本のおすすめの観光地を教えてください。<NL>システム: どの地域の観光地が知りたいですか?<NL>ユーザー: 渋谷の観光地を教えてください。<NL>システム: 

実装は以下のようになります

from chatstream import AbstractChatPrompt


class ChatPromptRinnaJapaneseGPTNeoxInst(AbstractChatPrompt):
    def __init__(self):
        super().__init__()
        self.set_requester("ユーザー")  # モデルに対して要求する側のロール名 を指定します
        self.set_responder("システム")  # 返信する側=モデル のロール名 を指定します

    def get_stop_strs(self):
        return []  # あるキーワードが来たら文章生成を停止したい場合はここにキーワードを列挙します

    def get_replacement_when_input(self):
        return [("\n", "<NL>")]  # 入力時の入力テキストの置換ルール

    def get_replacement_when_output(self):
        return [("<NL>", "\n")]  # 出力時の出力テキストの置換ルール

    def create_prompt(self, opts={}):
        # プロンプトを構築していきます
        ret = self.system;
        # get_contents でこれまでの会話履歴リストを取得
        for chat_content in self.get_contents(opts):
            # ロール名を取得
            chat_content_role = chat_content.get_role()
            # メッセージを取得
            chat_content_message = chat_content.get_message()

            if chat_content_role:

                if chat_content_message:
                    # メッセージパートが存在する場合
                    merged_message = chat_content_role + ": " + chat_content_message + "<NL>"
                else:
                    merged_message = chat_content_role + ": "

                ret += merged_message

        return ret

    def build_initial_prompt(self, chat_prompt):
        # 初期プロンプトは実装しない
        pass

プロンプトクラスの実装:ロールの設定

  • コンストラクタで、基底クラスの __init__() を呼び出します
  • 2者間チャットの場合は、 set_requesterset_responder でロール名を指定します。
def __init__(self):
    super().__init__()
    self.set_requester("ユーザー")  # モデルに対して要求する側のロール名 を指定します
    self.set_responder("システム")  # 返信する側=モデル のロール名 を指定します

もしシステム全体の初期化メッセージが必要な場合は set_system メソッドでシステムメッセージをセットします

def __init__(self):
    super().__init__()
    self.set_system("ユーザーとシステムからなるチャットシステムです。システムはユーザーに対して丁寧かつ正確な回答をするよう心がけます")
    self.set_requester("ユーザー")  # モデルに対して要求する側のロール名 を指定します
    self.set_responder("システム")  # 返信する側=モデル のロール名 を指定します

プロンプトクラスの実装:停止文字列の設定

  • 停止文字列を指定すると、特定のキーワード、トークンが出現した場合に文章生成を停止させることができます。
  • 無指定の場合は return [] とします
  • 停止文字列 と EOSトークン は異なります。ここで停止文字列を無指定にしても
    tokenizer にあらかじめ設定されている EOSトークン (tokenizer.eos_token_id)でも文章生成は停止します。
    def get_stop_strs(self):


    return ['</s>']  # '</s>' が出現したら、そこで文章生成を停止する

プロンプトクラスの実装:入力テキストの置換ルールの設定

チャットの実装では基本的にユーザーが入力した文章をモデルに入力しますが、モデルに入力できない文字やモデルに入力する際に変換が必要になる場合があります。

たとえば、ユーザーが入力した文章に \n (改行) が含まれているが、モデルが \n を受け付けられない場合は \n を適切な文字列に置換する必要があります。

ユーザーの入力をモデルに入力するときに置換するには以下のように指定します

    def get_replacement_when_input(self):


    return [("\n", "<NL>")]  # 入力時の入力テキストの置換ルール

ここでは \n<NL> に置換するように指定しています。("\n", "<NL>") のように組み合わせをタプルで指定します。
複数の置換パターンを登録したいときはこのタプルを複数指定します。

プロンプトクラスの実装:出力テキストの置換ルールの設定

モデルが出力した文章内に登場するキーワードを置換することができます。

例えば、モデルの出力が おはようございます。<NL>何か御用でしょうか だった場合に <NL> を 改行を示す \n に置換したいときに以下のように設定することで
出力を置換することができます

   def get_replacement_when_output(self):


   return [("<NL>", "\n")]  # 出力時の出力テキストの置換ルール

プロンプトクラスの実装:プロンプトの生成

過去の会話履歴を含めたプロンプト全体を生成するのが create_prompt メソッドです。

過去の会話履歴は self.get_contents() で取得することができます。

get_contents の戻り値は リストで、値には ChatContent クラスのインスタンスが格納されます

ChatContent クラスは1件分のチャット内容が格納されておりchat_content.getRole() でロール名、 chat_content.get_message()
でそのロールの発話内容(テキスト)が取得できます。

これらをつなぎあわせるロジックを記述することで、モデルが期待するフォーマットのプロンプトを生成することができます

    def create_prompt(self, opts={}):


# プロンプトを構築していきます
ret = self.system;
# get_contents でこれまでの会話履歴リストを取得
for chat_content in self.get_contents(opts):
    # ロール名を取得
    chat_content_role = chat_content.get_role()
    # メッセージを取得
    chat_content_message = chat_content.get_message()

    if chat_content_role:

        if chat_content_message:
            # メッセージパートが存在する場合
            merged_message = chat_content_role + ": " + chat_content_message + "<NL>"
        else:
            merged_message = chat_content_role + ": "

        ret += merged_message

return ret

プロンプトクラスの実装:初期プロンプト、初期コンテクストの生成

モデルによっては、事前に、ある程度会話のコンテクストを設定しておきたい場合があります。

いきなりモデルに入力して文章させることを ゼロショット と呼びますが、
事前にいくらか入力しておいて、前提知識や、例示などをあたえると、その後の出力が安定する場合があります。

これを ワンショットやフューショット などと呼びます。

チャットの場合はある特定の話題から会話を開始する、などの用途でも用います

以下は初期コンテクストとして、映画「タイタニック」と会話している状態からチャットを開始するための例です

build_initial_promptメソッドをオーバーライドします

def build_initial_prompt(self, chat_prompt):
    chat_prompt.add_requester_msg("Do you know about the Titanic movie?")
    chat_prompt.add_responder_msg("Yes, I am familiar with it.")
    chat_prompt.add_requester_msg("Who starred in the movie?")
    chat_prompt.add_responder_msg("Leonardo DiCaprio and Kate Winslet.")

Read more

発話音声からリアルなリップシンクを生成する技術 第5回(前編):Transformerの実装と実践的な技術選択

発話音声からリアルなリップシンクを生成する技術 第5回(前編):Transformerの実装と実践的な技術選択

こんにちは!リップシンク技術シリーズもいよいよ終盤となりました。 前回(第4回)では、LSTMの学習プロセスと限界について詳しく解説しました。限られたデータでも効果的に学習できるLSTMの強みを理解する一方で、長距離依存の処理に限界があることも明らかになりました。そして、この問題を解決する革新的なアプローチとして、すべての位置の情報を同時に参照できるTransformerのSelf-Attention機構を紹介しました。 第5回の今回は、 Transformerの具体的なネットワーク設計から始め、その実装上の課題を明らかにします。(前編※) そして、LSTMとTransformerの長所を組み合わせたハイブリッドアプローチを紹介し、実際の製品開発における技術選択の指針を示します。最後に、感情表現への拡張という次なる挑戦についても触れていきます。(後編※) ※Transformerの仕組みは複雑であるため、第5回は前編と後編に分けて解説させていただく予定です。 1. Transformerベースのネットワーク設計 1.1 全体アーキテクチャ図 では、さっそく、Tran

By Qualiteg 研究部, Qualiteg コンサルティング
大企業のAIセキュリティを支える基盤技術 - 今こそ理解するActive Directory 第2回 ドメイン環境の構築

大企業のAIセキュリティを支える基盤技術 - 今こそ理解するActive Directory 第2回 ドメイン環境の構築

こんにちは、今回はシリーズ第2回ドメイン環境の構築 - 検証環境の構築手順について解説いたします! 連載の構成 第1章:基本概念の理解 - Active DirectoryとKerberos/NTLM認証の基礎 【★今回です★】第2章:ドメイン環境の構築 - 検証環境の構築手順 第3章:クライアントとサーバーのドメイン参加 - ドメイン参加の詳細手順 第4章:プロキシサーバーと統合Windows認証 第5章:ブラウザ設定と認証 - 各ブラウザでの設定方法 第6章:トラブルシューティング - よくある問題と解決方法 第7章:セキュリティとベストプラクティス - 本番環境での考慮事項 第8章:実践的な構成例 - AIセキュリティツールとの統合事例 第2章:ドメイン環境の構築 2.1 ドメイン名の設計 2.1.1 ドメイン名の命名規則 Active Directoryを構築する際、

By Qualiteg コンサルティング
AIがよく間違える「クロージャ問題」の本質と対策

AIがよく間違える「クロージャ問題」の本質と対策

こんにちは! 本日は「クロージャ問題」に関する話題となります。 Pythonでループ内に関数を定義したことはありますか? もしあるなら、あれれ?な挙動に遭遇したことがあるかもしれません。 本稿では、Pythonプログラマーなら一度は経験する「クロージャ問題」について、初心者にもわかりやすく解説してみたいとおもいます クロージャとは何か? そもそも ”クロージャ” とは何でしょうか。 クロージャ(closure)とは、関数が自分の定義されたスコープの変数を覚えて持ち運ぶ仕組み のことです。 もう少し分解すると、次の2つがポイントとなります 1. 内側の関数が、外側の関数の変数を使える 2. 外側の関数が終了しても、その変数は生き続ける 普通の関数とクロージャ―を使った関数を比較してみましょう 普通の関数との比較 まずは普通の関数から、 def add(x, y): return x + y print(add(3, 5)) # 8 print(add(3, 7)

By Qualiteg プロダクト開発部
フリーランスHub様にQualiteg Blogをご紹介いただきました

フリーランスHub様にQualiteg Blogをご紹介いただきました

この度、フリーランス向け案件検索サービス「フリーランスHub」様の特集記事「トレンドをキャッチアップ!AIに関する情報が得られるメディア・ブログまとめ」にて、弊社が運営する「Qualiteg Blog」をご紹介いただきました。 掲載記事について フリーランスHub様の記事では、AI技術の最前線で活躍するエンジニアや開発者の方々に向けて、価値ある情報源となるメディア・ブログが厳選して紹介されています。 その中で、Qualiteg Blogを「AI技術の専門知識を実践的なビジネス活用につなげる貴重な情報源」として取り上げていただきました。 特に以下の点を評価いただいております * 実践的なビジネス活用事例の提供 AI新規事業創出や事業選定方法など、経営者やビジネスリーダーが直面する課題への具体的な解決策 * 技術的な深掘りコンテンツ リップシンク技術など、実際のサービスで使用されている技術の開発現場目線での詳細な解説 * 多様な情報発信 代表執筆記事、AIトピックス、講演会動画など、幅広いフォーマットでの情報提供 今後も価値ある情報発

By Qualiteg ニュース