PyTorch 2.6 のセキュリティ: モデルチェックポイントロードの安全対策

PyTorch 2.6 のセキュリティ: モデルチェックポイントロードの安全対策

こんにちは!

今日は、魅力的なPyTorchチェックポイントが配られているからと言って無邪気に使っちゃうと、超ヤバイよ、というお話になります。

みなさまモデルチェックポイントをロードする際のセキュリティリスクについて考えたことはありますでしょうか。実はモデルの重みファイルだとばかり思っていたチェックポイントが、思わぬセキュリティホールになる可能性があります。

本記事では、PyTorchのtorch.load関数の安全性と、モデルチェックポイントを適切に扱うための実践的なガイドラインを紹介します。

モデルチェックポイントの隠れた危険性

PyTorchのtorch.load関数は非常に便利な一方で、セキュリティ上の重大なリスクを含んでいます。

その理由は、

  • チェックポイント単なるパラメータだけではないよ!
    チェックポイントファイルには、モデルの重み(weights)だけでなく、クラスや関数など任意のPythonコードを含めることが可能です。
  • 実行可能なコードが入ってるよ!
    これは、チェックポイントが単なる「データファイル」ではなく、Pythonコードを実行できる可能性を持つファイルであることを意味します。
  • ってことで潜在的な脆弱性があるよ!
    悪意あるチェックポイントを不用意にロードすると、ファイルをロードした瞬間に任意のコードが実行される可能性があります。

そうです、チェックポイントは重みデータだけではないんです。

チェックポイントファイルに入れられるもの

ということで、PyTorchのチェックポイントファイル(.ptや.pth,.ckptファイル)には、モデルの重み(パラメータ)だけでなく、実際にPythonのコードも含めることができてしまいます。

これは、PyTorchが内部的にPythonのpickleシリアライゼーション形式を使用しているためです。

pickleは、Pythonオブジェクトの状態を保存・復元するための仕組みですが、クラス定義や関数など、実行可能なコードも含めて保存できる特性があります。

具体的には、チェックポイントには以下のような要素が含まれてる可能性があります。

  • モデルの重みパラメータ
  • モデルのアーキテクチャ情報
  • オプティマイザの状態
  • 学習率スケジューラの状態
  • カスタムクラス・関数の定義(←ここが危ない)
  • その他のメタデータ

「カスタムクラス・関数の定義」が、セキュリティ上の懸念となります。悪意のある人が作成したチェックポイントには、ファイル削除やシステムコマンドの実行など、危険なコードが含まれている可能性があります。

だから、魅力的なチェックポイントが配られているからと言って無邪気に使っちゃうと、超ヤバイんです。

具体的な攻撃シナリオ

悪意あるチェックポイントが引き起こす可能性のある問題は次のようなものがあります

  1. (あなたが)不正なファイルをダウンロードする
  2. (あなたが)それをweights_only=Falseでロードする
  3. (わるい奴が仕込んだ)チェックポイントに含まれた悪意あるコードが即座に実行される
  4. (最悪の場合は)攻撃者はPC上で任意の操作(ファイル削除、情報漏洩、マルウェアのインストールなど)が可能になる

PyTorch 2.6でのセキュリティ強化

PyTorch 2.6以降では、セキュリティ対策が強化されました。具体的な変更点としては、

  • torch.load()weights_only引数がデフォルトでTrueに設定されるようになりました
  • これにより、デフォルトでモデルのパラメータ(重み)のみが安全にロードされ、潜在的に危険なコードの実行が防止されます

この変更により、以下のようなエラーが発生したり

RuntimeError: ('Attempted to deserialize object from torch.nn.Module that contains non-parameter/buffer types, which could potentially lead to security vulnerabilities. ...

 _pickle.UnpicklingError: Weights only load failed. This file can still be loaded, to do so you have two options, do those steps only if you trust the source of the checkpoint.
         (1) In PyTorch 2.6, we changed the default value of the weights_only argument in torch.load from False to True. Re-running torch.load with weights_only set to False will likely succeed, but it can result in arbitrary code execution. Do it only if you got the file from a trusted source.
         (2) Alternatively, to load with weights_only=True please check the recommended steps in the following error message.
         WeightsUnpickler error: Unsupported global:...

このエラーは、チェックポイントファイルに単なるモデルの重みだけでなく、クラスや関数などのコード情報も含まれている場合に発生します。例えば、fairseq.data.dictionary.Dictionaryのようなクラスが含まれていると、デフォルト設定では未許可のクラスとして拒否されます。

安全の基準:何が「安全」で何が「安全でない」か

🟢 「安全」と判断できるファイル

次のような場合はほぼ「安全」と考えることができます

  • 自分自身で作成したモデルのチェックポイント(内容を完全に把握しているため)
  • 信頼できる公式ソースから直接取得したモデルファイル(有名な大学、著名な企業、公式レポジトリなど)
  • 公式のGitHubリポジトリや公式ウェブサイトから取得したモデルで、提供者が広く知られており、モデルのチェックポイントの内容が明示的に示されている場合(例:Hugging Faceの公式リポジトリ、Facebookのfairseq公式リポジトリなど)

(とはいえ、注意深くセキュリティ情報は把握しておく必要はありますし、基本は weights_only =True でロードです。)

🔴 「安全でない」可能性のあるファイル

次のような場合は「安全でない」と疑うべきです:

  • 出所不明のサイトや第三者が匿名で共有したモデル
  • SNSや非公式フォーラムなど、素性がわからない人物から直接ダウンロードしたモデルファイル
  • モデルファイルの配布者が特定できず、かつモデルの構造やコードについて十分な情報が公開されていない場合

このようなファイルは絶対にweights_only=Falseでロードしてはいけません。

🔐 安全なモデルロードのためのコード例と対処法

エラーが発生した場合の解決方法

ここではfacebookの fairseqを使っていて実際に発生したエラーと対処法についてみてみます

 _pickle.UnpicklingError: Weights only load failed. This file can still be loaded, to do so you have two options, do those steps only if you trust the source of the checkpoint.
         (1) In PyTorch 2.6, we changed the default value of the weights_only argument in torch.load from False to True. Re-running torch.load with weights_only set to False will likely succeed, but it can result in arbitrary code execution. Do it only if you got the file from a trusted source.
         (2) Alternatively, to load with weights_only=True please check the recommended steps in the following error message.
         WeightsUnpickler error: Unsupported global: GLOBAL fairseq.data.dictionary.Dictionary was not an allowed global by default. Please use torch.serialization.add_safe_globals([Dictionary]) or the torch.serialization.safe_globals([Dictionary]) context manager to allowlist this global if you trust this class/function.

このエラーは、PyTorchのtorch.load()でモデルのチェックポイントを読み込む際、セキュリティのためデフォルト設定が厳しくなったために発生したものです。

具体的には、以下の原因によります

  • PyTorch 2.6以降で、torch.load()weights_only引数がデフォルトでTrueとなり、モデルのパラメータ(重み)のみを安全にロードしようとします。
  • このエラーが発生するチェックポイントファイルには、単なるモデルの重みだけでなく、クラスや関数などのコード情報も含まれています。そのため、weights_only=Trueのままロードしようとすると、未許可のクラスや関数が含まれているとして拒否されます。
  • 今回のエラーの場合、未許可として拒否されたクラスは fairseq.data.dictionary.Dictionary となっていることがこのメッセージから読み取れますね。

① 推奨の解決方法(安全性高)

信頼できるクラスを「許可リスト」に登録してから読み込みます。

import torch
from fairseq.data.dictionary import Dictionary

# このクラスが安全と分かっている場合のみ実行
torch.serialization.add_safe_globals([Dictionary])

# その後にチェックポイントをロード
checkpoint = torch.load('checkpoint.pt')

もしくは、一時的に許可する場合はコンテキストマネージャを利用します。

import torch
from fairseq.data.dictionary import Dictionary

with torch.serialization.safe_globals([Dictionary]):
    checkpoint = torch.load('checkpoint.pt')

② 旧来の方法(安全性低)

weights_only=Falseを指定してロードします。ただし、この方法は安全ではないため、信頼できるソースから取得したファイルにのみ使用してください。

import torch

checkpoint = torch.load('checkpoint.pt', weights_only=False)

実装例:安全にチェックポイントをロードする関数

以下は、安全性を考慮したチェックポイントロード関数の例です

import torch
from typing import List, Type, Optional

def load_checkpoint_safely(
    checkpoint_path: str,
    trusted_classes: Optional[List[Type]] = None,
    force_weights_only: bool = False
) -> dict:
    """
    安全にチェックポイントをロードする関数
    
    Args:
        checkpoint_path: チェックポイントファイルのパス
        trusted_classes: 信頼できるクラスのリスト(None の場合は空リスト)
        force_weights_only: True の場合、weights_only=True で強制的にロード
        
    Returns:
        チェックポイントの内容
        
    Raises:
        RuntimeError: ロードに失敗した場合
    """
    if force_weights_only:
        return torch.load(checkpoint_path, weights_only=True)
        
    trusted_classes = trusted_classes or []
    
    try:
        # まず安全にロードを試みる
        return torch.load(checkpoint_path)
    except RuntimeError as e:
        if "non-parameter/buffer types" in str(e):
            # 信頼できるクラスがある場合はそれらを使用
            if trusted_classes:
                with torch.serialization.safe_globals(trusted_classes):
                    return torch.load(checkpoint_path)
            else:
                raise RuntimeError(
                    f"チェックポイントに未許可のクラスが含まれています。"
                    f"信頼できるソースの場合は、trusted_classes パラメータを使用してください。"
                    f"原エラー: {str(e)}"
                )
        else:
            # その他のエラーはそのまま再発生
            raise

さて、最後に今回の事例についてベストプラクティスをまとめておきましょう

ベストプラクティスのまとめ

  1. デフォルトは安全第一
    • PyTorch 2.6以降のデフォルト設定(weights_only=True)を活用する
    • 信頼性が不明なファイルは常にデフォルト設定のままロードを試みる
  2. 明示的な許可リストの使用
    • 信頼できるクラスはadd_safe_globalsまたはsafe_globalsコンテキストマネージャで明示的に許可する
    • これにより、必要最小限のクラスのみを許可し、安全性を確保できる
  3. weights_only=Falseは最終手段です
    • 信頼できるファイルの場合のみ、最終手段として使用する
    • 不明なソースのチェックポイントには絶対に使用しない

まとめ:セキュリティ意識の向上を

PyTorch 2.6以降のセキュリティ強化は、深層学習モデルの安全な共有と利用を前進させました。

基本的な安全の基準は非常にシンプルで

  • 出所が明確で信頼(安全のエビデンスがある)できる → 安全
  • 出所不明、匿名、不審な提供元 → 安全でない

当社でもプロダクトのベースを PyTorch 2.6 にしたら、いままで動いていたコードが動かなくなり、多くの見直しも発生しました。が、そのおかげで、モデル・セキュリティの意識と知識を一歩深めることができたと感じております。

ディープラーニングの適用例やプレイヤーが増えるにつれ多くの有用なモデルが配布されるようになりましたが、プレイヤーが増えると、このようによからぬことを考えるプレイヤーも増えるという事なので、今後もチェックポイントのロードには細心の注意を払っていきたいと思います。旧バージョンのPyTorchを使ってるプロダクト開発する必要がある場合は特にきをつけるべきですね。

それでは、また次回お会いしましょう!

Read more

PyCharmで npm start 実行時にIDEがサイレントクラッシュした事例と切り分け

PyCharmで npm start 実行時にIDEがサイレントクラッシュした事例と切り分け

こんにちは!Qualitegプロダクト開発部です! PyCharmの内蔵npmツールで npm start を実行した瞬間、何のエラーメッセージもなくIDEが消える。 再起動してもう一度試すとまた落ちる。ログを見ても手がかりがない——。 今回はこの「サイレントクラッシュ」に遭遇し、原因の絞り込みから回避策の確立まで至った過程を書き残しておきます。同じ現象で困っている方の参考になれば幸いです。 環境 項目 内容 OS Windows 10/11 PyCharm 2026.1(2023.1.6時代から連綿とUpdateをした状態) Python 3.11.4(venv使用) Node.js v25.2.1 プロジェクト Python + Node.js 混合構成 上記のとおり、PyCharmは執筆時点の最新版(2026.1)となります。 確認できたこと・推測していること まず最初に、

By Qualiteg プロダクト開発部
大企業のAIセキュリティを支える基盤技術 - 今こそ理解するActive Directory 第6回 よくある問題と解決方法

大企業のAIセキュリティを支える基盤技術 - 今こそ理解するActive Directory 第6回 よくある問題と解決方法

こんにちは、今回はシリーズ第6回トラブルシューティング - よくある問題と解決方法 について解説いたします! さて、前回(第5回)は、統合Windows認証がブラウザでどのように動作するかを解説しました。 「イントラネットゾーン」という概念を理解することで、同じサーバーでもURLの書き方(NetBIOS名、FQDN、IPアドレス)によって認証動作が変わる理由が明確になったかと思います。また、Chrome/Firefoxではデフォルトで統合認証が無効になっている理由と、グループポリシーによる一括設定方法も学びました。 しかし、設定が完璧なはずなのに「なぜかうまく動かない」という場面は、実際の現場では必ず訪れます。 「最近、ファイルサーバーへのアクセスが遅い」「金曜日は使えたのに、月曜日の朝にログインできない」「特定のサービスだけKerberosが失敗する」——これらはヘルプデスクに日々寄せられる典型的な問い合わせです。 原因はKerberosの失敗、時刻のずれ、SPNの設定ミス、DNS関連の問題など多岐にわたりますが、体系的にトラブルシューティングすることで必ず解決できます。

By Qualiteg コンサルティング, Qualiteg AIセキュリティチーム
AIエージェントを"事業に載せる"ために【第2回】AIエージェントの責任分解はなぜ難しいのか

AIエージェントを"事業に載せる"ために【第2回】AIエージェントの責任分解はなぜ難しいのか

— AI導入を"事業に載せる"ために、いま設計すべきこと(全3回) こんにちは!Qualitegコンサルティングチームです! 前回(第1回)では、Replit/Lemkin事件とDeloitte豪州政府報告書問題を通じて、AIエージェント導入の課題がモデル性能ではなく「権限・監査・責任の設計不在」にあることを見ました。 では、実際に事故が起きたとき、責任は誰が負うのでしょうか。第2回となる本記事では、法務・契約・組織の3つの観点から、AIエージェントの責任分解がなぜ難しいのかを構造的に整理します。 結論を先に言えば、法務だけでも契約だけでも組織論だけでも足りません。この3つを接続して設計しなければ、AIエージェントの責任分解は実務上機能しません。 1. 法的フレームワーク:複数の法理論が並走している AIエージェントが損害を出したとき、どの法理論で責任が問われるかについて、現時点でグローバルなコンセンサスは形成されていません。 Clifford Chanceの論考は、この状況の根本的な難しさを整理しています。法律は歴史的に、有害な行為がいつどのように発生したかを特定でき

By Qualiteg コンサルティング
AIエージェントを"事業に載せる"ために【第1回】

AIエージェントを"事業に載せる"ために【第1回】

AI導入事故は何を示しているのか — AI導入を"事業に載せる"ために、いま設計すべきこと(全3回) こんにちは!Qualitegコンサルティングチームです! AIエージェントを導入する企業が増える一方で、 「試してみる」段階から「事業に載せる」段階へ進める難しさ が、はっきり見え始めています。 本シリーズでは、AIエージェント導入を技術論だけでなく、責任分解・監査可能性・契約・運用統制を含む業務設計の問題として整理します。 全3回を通じて、「AIが賢いかどうか」ではなく、「AIを業務に載せるために何を設計するか」を考えていきます。 第1回となる本記事では、2025年に起きた2つの事例を出発点に、なぜいま「責任設計」が問題になっているのかを見ていきます。 上図は、本シリーズ全体で扱う論点の全体像です。 AIエージェントの導入は、技術的なモデル選定だけでは完結せず、権限設計、契約、監査、品質監視、保険、異常時対応まで含めた設計が必要になります。 第1回ではまず、なぜこうした設計が求められるようになったのかを、実際の事例から見ていきたいとおもいます なお、本シリー

By Qualiteg コンサルティング