ONNX RuntimeのCUDAエラー「libcublasLt.so.11: cannot open shared object file」を解決する

ONNX RuntimeのCUDAエラー「libcublasLt.so.11: cannot open shared object file」を解決する
Photo by Evan Lee / Unsplash

こんにちは!
ONNX Runtimeを使用していると、以下のようなエラーに遭遇することがあります

[E:onnxruntime:Default, provider_bridge_ort.cc:1744 TryGetProviderInfo_CUDA] 
Failed to load library libonnxruntime_providers_cuda.so with error: 
libcublasLt.so.11: cannot open shared object file: No such file or directory

[W:onnxruntime:Default, onnxruntime_pybind_state.cc:870 CreateExecutionProviderInstance] 
Failed to create CUDAExecutionProvider.

このエラーは、GPUアクセラレーションが使えずCPUフォールバックで動作している状態を示しています。本記事では、この問題の原因調査から解決までのプロセスを詳しく解説します。

問題の症状

エラーが発生する状況

  • ONNX Runtimeでモデルを読み込む際に毎回警告が表示される
  • 画像処理や推論処理で処理時間が異常に長い(例:数秒以上)
  • onnxruntime-gpuをインストールしているのにGPUが使われない
  • プログラムを実行するたびに同じ警告が繰り返し表示される

パフォーマンスへの影響

# CPU実行時(エラー発生時)
Model A warmup time: 5.071s
Model B warmup time: 0.029s

# GPU実行時(正常時)の期待値
Model A warmup time: 0.5-1.0s  # 5-10倍高速化
Model B warmup time: 0.005-0.01s  # 3-5倍高速化

原因調査のプロセス

ステップ1: 環境の現状確認

まずは、ONNX RuntimeがGPUを認識できているか確認しましょう

# インストール済みパッケージの確認
pip list | grep onnx

出力例

onnx                     1.16.1
onnxruntime-gpu          1.18.0
# GPUの認識状況を確認
python -c "import onnxruntime; print(onnxruntime.get_device()); print(onnxruntime.get_available_providers())"

出力例

GPU
['TensorrtExecutionProvider', 'CUDAExecutionProvider',  'CPUExecutionProvider']

ステップ2: 問題の分析

この時点で興味深い状況が判明しました

  • onnxruntime.get_device()GPU(認識されている)
  • CUDAExecutionProviderが利用可能リストに含まれている
  • しかし実行時にはエラーが発生してCPUフォールバック

これは、ONNX Runtime自体はGPUを認識しているが、実行時に必要なCUDAライブラリが不足している状況を示しています。

ステップ3: バージョン不整合の特定

# システムのCUDAバージョン確認
nvcc --version
ls -la /usr/local/ | grep cuda

調査の結果

  • システムにはCUDA 12がインストール済み
  • ONNX RuntimeがCUDA 11のライブラリ(libcublasLt.so.11)を探している

ということでバージョン不整合が原因と特定できましたー

解決方法の検討

方法1: シンボリックリンク(リスクの評価)

当初、シンボリックリンクで解決することを検討しました

# CUDA 12のライブラリをCUDA 11として認識させる
sudo ln -s /lib/x86_64-linux-gnu/libcublasLt.so.12 /lib/x86_64-linux-gnu/libcublasLt.so.11

ただし、こんな付け焼刃でいいのか、リスクを考えてみます

  • メリット:手軽で追加インストール不要
  • リスク:ABI互換性の問題、他のCUDA 11依存アプリへの影響

そこで、しらべてみると、
onnxruntime-gpu 1.18.0は既にCUDA 12対応版であることが判明しました。
つまり、シンボリックリンクは同じCUDA 12系統内での対応となるため、リスクは小さいと判断できました

方法2: 完全な解決策の発見

ただし、このシンボリックリンクだけでは解決しなかったため、さらに調査を進めた結果、cuDNNの不足が判明しました。

ということで、最終的な解決方法です

★最終的な解決方法

ステップ1: cuDNNのインストール

conda install -c conda-forge cudnn=8.9.7.29 -y

このステップが最も重要でcuDNNがないとCUDAExecutionProviderが初期化できません。

ステップ2: シンボリックリンクの作成

# libcublasLt.so.11のシンボリックリンク作成
sudo ln -sf /usr/local/cuda-12/lib64/libcublasLt.so.12 \
            /usr/lib/x86_64-linux-gnu/libcublasLt.so.11

# libcublas.so.11のシンボリックリンク作成  
sudo ln -sf /usr/local/cuda-12/lib64/libcublas.so.12 \
            /usr/lib/x86_64-linux-gnu/libcublas.so.11

# ライブラリキャッシュの更新
sudo ldconfig

ステップ3: ONNX Runtimeの再インストール

# 既存のパッケージをアンインストール
pip uninstall onnxruntime onnxruntime-gpu -y

# GPU版をインストール
pip install onnxruntime-gpu==1.22.0

再インストール時に最新版がインストールされる可能性があるため、バージョン固定が推奨です

なぜシンボリックリンクだけでは不十分だったか

初回の試みでシンボリックリンクだけでは解決しなかった理由

  1. libcublasLt.so.11 → シンボリックリンクで解決した
  2. libcudnn.so.8不足していた
  3. その他のCUDA関連ライブラリ → 不完全

ということで、cuDNNのインストールが必須だったことが判明しました。

動作確認

GPUが使用されているか確認

import onnxruntime as ort

# テスト用のセッション作成
session = ort.InferenceSession(
    "your_model.onnx",
    providers=['CUDAExecutionProvider', 'CPUExecutionProvider']
)

# 実際に使用されているプロバイダーを確認
print("Active providers:", session.get_providers())
# 成功時の出力: ['CUDAExecutionProvider', 'CPUExecutionProvider']
# 失敗時の出力: ['CPUExecutionProvider']

パフォーマンステスト

import time
import onnxruntime as ort
import numpy as np

# モデル読み込み
session = ort.InferenceSession("model.onnx")

# ダミー入力データ
dummy_input = np.random.randn(1, 3, 224, 224).astype(np.float32)

# ウォームアップ
for _ in range(5):
    session.run(None, {"input": dummy_input})

# 実測
start = time.time()
for _ in range(100):
    session.run(None, {"input": dummy_input})
print(f"Average inference time: {(time.time() - start) / 100:.4f}s")

トラブルシューティング

デバッグ用チェックリスト

# 1. ONNX Runtimeのバージョン確認
python -c "import onnxruntime; print(onnxruntime.__version__)"

# 2. GPUの認識確認
python -c "import onnxruntime; print(onnxruntime.get_device())"

# 3. 利用可能なプロバイダー確認
python -c "import onnxruntime; print(onnxruntime.get_available_providers())"

# 4. CUDAのインストール確認
nvcc --version
ls -la /usr/local/ | grep cuda

# 5. 必要なライブラリの存在確認
ls -la /usr/lib/x86_64-linux-gnu/ | grep -E "libcublas|libcudnn"

# 6. 依存関係の確認
ldd $(python -c "import onnxruntime; print(onnxruntime.__file__)") | grep "not found"

完全な環境構築手順

requirements.txt

onnxruntime-gpu==1.22.0

setup.sh

#!/bin/bash

echo "=== ONNX Runtime GPU Setup ==="

# 0. 現状確認
echo "Current environment check:"
python -c "import onnxruntime; print('Version:', onnxruntime.__version__); print('Device:', onnxruntime.get_device())" 2>/dev/null || echo "ONNX Runtime not installed"

# 1. cuDNN のインストール
echo "Installing cuDNN..."
conda install -c conda-forge cudnn=8.9.7.29 -y

# 2. シンボリックリンクの作成
echo "Creating symbolic links..."
sudo ln -sf /usr/local/cuda-12/lib64/libcublasLt.so.12 \
            /usr/lib/x86_64-linux-gnu/libcublasLt.so.11
sudo ln -sf /usr/local/cuda-12/lib64/libcublas.so.12 \
            /usr/lib/x86_64-linux-gnu/libcublas.so.11

# 3. ライブラリキャッシュの更新
echo "Updating library cache..."
sudo ldconfig

# 4. ONNX Runtime のインストール
echo "Installing ONNX Runtime GPU..."
pip uninstall onnxruntime onnxruntime-gpu -y
pip install -r requirements.txt

# 5. 動作確認
echo "Verification:"
python -c "
import onnxruntime as ort
print('ONNX Runtime version:', ort.__version__)
print('Device:', ort.get_device())
print('Available providers:', ort.get_available_providers())
"

echo "Setup complete!"

まとめ

以下のような手順で解決にいたりました

  1. 初期診断:GPUは認識されているが実行時にエラー
  2. 原因特定:CUDA 11/12のバージョン不整合とcuDNNの不足
  3. 解決策:cuDNNインストール + シンボリックリンク + 再インストール

重要なのは、シンボリックリンクだけでは不十分で、cuDNNのインストールが必須だったという点ですね。この3ステップを正しい順序で実行することで、GPUアクセラレーションを有効化し、推論処理を2〜10倍高速化できます。
とくにCPUフォールバックを見逃すと、せっかくのGPUパワーを活かせないので、この警告がでたら、しっかり対応することが必要そうです

Read more

サブスクビジネス完全攻略 第1回~『アープがさぁ...』『チャーンがさぁ...』にもう困らない完全ガイド

サブスクビジネス完全攻略 第1回~『アープがさぁ...』『チャーンがさぁ...』にもう困らない完全ガイド

なぜサブスクリプションモデルが世界を変えているのか、でもAI台頭でSaaSは終わってしまうの? こんにちは! Qualitegコンサルティングです! 新規事業戦略コンサルタントとして日々クライアントと向き合う中で、ここ最近特に増えているのがSaaSビジネスに関する相談です。興味深いのは、その背景にある動機の多様性です。純粋に収益モデルを改善したい企業もあれば、 「SaaS化を通じて、うちもデジタルネイティブ企業として見られたい」 という願望を持つ伝統的な大企業も少なくありません。 SaaSという言葉が日本のビジネスシーンに本格的に浸透し始めたのは2010年代前半。それから約15年が経ち、今やSaaSは「先進的な企業の証」のように扱われています。 まず SaaSは「サーズ」と読みます。 (「サース」でも間違ではありません、どっちもアリです) ほかにも、 MRR、ARR、アープ、チャーンレート、NRR、Rule of 40…… こうした横文字が飛び交う経営会議に、戸惑いながらも「乗り遅れてはいけない」と焦る新規事業担当者の姿をよく目にします。 しかし一方で、2024

By Qualiteg コンサルティング
ASCII STARTUP TechDay 2025に出展します!

ASCII STARTUP TechDay 2025に出展します!

株式会社Qualitegは、2025年11月17日(月)に東京・浅草橋ヒューリックホール&カンファレンスで開催される「ASCII STARTUP TechDay 2025」に出展いたします。 イベント概要 「ASCII STARTUP TechDay 2025」は、日本のディープテックエコシステムを次のレベルへ押し上げ、新産業を創出するイノベーションカンファレンスです。ディープテック・スタートアップの成長を支えるエコシステムの構築、そして成長・発展を目的に、学術、産業、行政の垣根を越えて知を結集する場として開催されます。 開催情報 * 日時:2025年11月17日(月)13:00~18:00 * 会場:東京・浅草橋ヒューリックホール&カンファレンス * 住所:〒111-0053 東京都台東区浅草橋1-22-16ヒューリック浅草橋ビル * アクセス:JR総武線「浅草橋駅(西口)」より徒歩1分 出展内容 当社ブースでは、以下の3つの主要サービスをご紹介いたします。 1.

By Qualiteg ニュース
大企業のAIセキュリティを支える基盤技術 - 今こそ理解するActive Directory 第4回 プロキシサーバーと統合Windows認証

大企業のAIセキュリティを支える基盤技術 - 今こそ理解するActive Directory 第4回 プロキシサーバーと統合Windows認証

11月に入り、朝晩の冷え込みが本格的になってきましたね。オフィスでも暖房を入れ始めた方も多いのではないでしょうか。 温かいコーヒーを片手に、シリーズ第4回「プロキシサーバーと統合Windows認証」をお届けします。 さて、前回(第3回)は、クライアントPCやサーバーをドメインに参加させる際の「信頼関係」の確立について深掘りしました。コンピューターアカウントが120文字のパスワードで自動認証される仕組みを理解いただけたことで、今回のプロキシサーバーの話もスムーズに入っていけるはずです。 ChatGPTやClaudeへのアクセスを監視する中間プロキシを構築する際、最も重要なのが「確実なユーザー特定」です。せっかくHTTPS通信をインターセプトして入出力内容を記録できても、アクセス元が「tanaka_t」なのか「yamada_h」なのかが分からなければ、監査ログとしての価値は半減してしまいます。 今回は、プロキシサーバー自体をドメインメンバーとして動作させることで、Kerberosチケットの検証を可能にし、透過的なユーザー認証を実現する方法を詳しく解説します。Windows版Squid

By Qualiteg AIセキュリティチーム
エンジニアリングは「趣味」になってしまうのか

エンジニアリングは「趣味」になってしまうのか

こんにちは! 本日は vibe coding(バイブコーディング、つまりAIが自動的にソフトウェアを作ってくれる)と私たちエンジニアの将来について論じてみたいとおもいます。 ちなみに、自分で作るべきか、vibe codingでAIまかせにすべきか、といった二元論的な結論は出せていません。 悩みながらいったりきたり考えてる思考過程をツラツラと書かせていただきました。 「作る喜び」の変質 まずvibe codingという言葉についてです。 2025年2月、Andrej Karpathy氏(OpenAI創設メンバー)が「vibe coding」という言葉を広めました。 彼は自身のX(旧Twitter)投稿で、 「完全にバイブに身を任せ、コードの存在すら忘れる」 と表現しています。 つまり、LLMを相棒に自然言語でコードを生成させる、そんな新しい開発スタイルを指します。 確かにその生産性は圧倒的です。Y Combinatorの2025年冬バッチでは、同社の発表によれば参加スタートアップの約25%がコードの95%をAIで生成していたとされています(TechCrunch, 2

By Qualiteg プロダクト開発部