PythonとWSL開発のトラブルシューティング: PyCharmとCondaの環境不一致問題

PythonとWSL開発のトラブルシューティング: PyCharmとCondaの環境不一致問題

こんにちは!

今回は、WSL上のConda環境をPyCharmから利用する際に発生した「同じ環境なのにパッケージリストが一致しない」という問題に遭遇したため、その原因と対策について書いてみたいとおもいます

問題の状況

開発の流れは以下のようなものでした

  1. WSL環境でConda仮想環境を作成
  2. その環境をPyCharmのプロジェクトインタプリタとして設定
  3. 開発を進める中で奇妙な現象に気づく

具体的には、次のような不一致が発生していました

  • PyCharmのプロジェクト設定で表示されるpipパッケージのリスト
  • WSLでConda環境をアクティベートした後にpip listコマンドで表示されるパッケージのリスト

これらが一致せず、「WSL側のシェルから直接インストールしたパッケージがPyCharmで認識されない」という問題が生じていました。

この手の問題でよくある原因は、PyCharm側がWSL側の更新を得るのに少し時間がかかったり、 Indexing が遅れているなどなのですが、今回はそれが原因ではありませんでした。

危険な「静かな失敗」

この問題の最も厄介な点は、何のエラーメッセージも表示されないことです。ユーザーにとっては全く通常通りの操作に見えるため、問題の存在に気づくことすら難しいのです。

(my_conda_env) user@wsl:~$ conda activate my_conda_env
(my_conda_env) user@wsl:~$ pip install numpy  # 成功したように見える!

上記のコマンドは一見すると成功しているように見えます。プロンプトには(my_conda_env)と表示され、pipコマンドも正常に実行されています。しかし実際には、パッケージはConda環境にはインストールされていませんでした。

これは非常にやっかいな「静かな失敗」です。

わたしは確かにConda環境内で作業していると思い込みますが、実際のパッケージインストールは全く別の場所で行われています。この問題に気づかないまま開発を続けると、後になって原因不明のエラーや環境の不一致に悩まされることになります。

原因の調査

WSL側で環境を調査したところ、問題の根本原因が判明しました:

(qualiteg_ml_dev_env) qualiteg_dev@LLM-Inf-Dev:~$ which pip
/home/qualiteg_dev/.local/bin/pip

Conda環境がアクティベートされているにもかかわらず、which pipコマンドはCondaの環境内のpipではなく、ユーザーのホームディレクトリにある.local/bin/pipを指していました。本来であれば、Conda環境内のpipが使用されるべきなのに。。

つまりいくらWSL側でpip installを実行しても、パッケージはConda環境ではなくユーザーの.localディレクトリにインストールされていたのです。一方、PyCharmは正しくConda環境のpipを使用していたため、パッケージリストに不一致が生じていました。

問題の見つけ方と検証

この「静かな失敗」に気づくには、以下のような確認作業が重要でした

  1. PyCharmとの不一致確認
    PyCharmのパッケージリストと、WSLのconda listpip listの出力を比較して、不一致があれば同様の問題が疑われます。

インストール前後のパッケージリスト比較

(my_conda_env) user@wsl:~$ conda list numpy  # インストール前
(my_conda_env) user@wsl:~$ pip install numpy
(my_conda_env) user@wsl:~$ conda list numpy  # インストール後

pip経由でインストールしたはずのパッケージがconda listに表示されない場合、問題が発生しています。

環境アクティベート後のパスの確認

(my_conda_env) user@wsl:~$ which pip

このコマンドの結果がConda環境内(例:/home/user/anaconda3/envs/my_conda_env/bin/pip)を指していない場合は警戒信号ですね。

.bashrcファイルの問題

なぜおかしな現象になるのかとおもい、

.bashrcファイルを調査したところ、PATHの設定に問題があることがわかりました

# 問題のある.bashrc設定
export PATH=$PATH:/home/qualiteg_dev/.local/bin
export PATH=~/anaconda3/bin:$PATH

# >>> conda initialize >>>
# !! Contents within this block are managed by 'conda init' !!
__conda_setup="$('/home/qualiteg_dev/anaconda3/bin/conda' 'shell.bash' 'hook' 2> /dev/null)"
if [ $? -eq 0 ]; then
    eval "$__conda_setup"
else
    if [ -f "/home/qualiteg_dev/anaconda3/etc/profile.d/conda.sh" ]; then
        . "/home/qualiteg_dev/anaconda3/etc/profile.d/conda.sh"
    else
        export PATH="/home/qualiteg_dev/anaconda3/bin:$PATH"
    fi
fi
unset __conda_setup
# <<< conda initialize <

export PATH=~/anaconda3/bin:$PATH

問題点は2つありました:

  1. .local/binのPATHが$PATH:/home/qualiteg_dev/.local/binという形で追加されており、システムパスの後ろに追加されていた
  2. Conda初期化ブロックの後に重複したPATH設定があった

これにより、Conda環境をアクティベートしても、.local/binディレクトリにあるpipが優先的に使用されてしまっていました。

問題の影響

この「静かな失敗」のせいで、いろいろ時間がかかりました

  1. 幻想的な開発環境:
    Conda環境内で作業していると思い込みますが、実際には環境の分離が機能していなかった
    シェル側でちゃんと仮想環境に入ってるのに pip install,pip uninstallを繰り返してもPyCharm側は一切変わらず
    一連のトラブルシューティングの中でPyCharmを最新版にできたのは良い副作用でした(^^;)
  2. デバッグの悪夢
    エラーメッセージが出ないため、問題の根本原因を特定するのが非常に難しくなります。「インストールしたはずのパッケージがない」「同じ環境なのに動作が異なる」といった謎のエラーに悩まされました

解決策

この問題を解決するために、具体的には以下のような方法をとりました

1. .bashrcの修正

PATHの設定順序を変更して、Conda環境のPATHが優先されるように修正します:

# 変更前
export PATH=$PATH:/home/qualiteg_dev/.local/bin

# 変更後(先頭に追加)
export PATH=/home/qualiteg_dev/.local/bin:$PATH

また、Conda初期化ブロックの後の重複したPATH設定行を削除します:

# 削除する行
export PATH=~/anaconda3/bin:$PATH

2. 明示的にPythonモジュールとしてpipを実行

最も安全で確実な方法は、常に以下の形式でpipを実行することです:

python -m pip install パッケージ名

この方法は、現在アクティブなPython環境(この場合はConda環境)に関連付けられたpipを確実に使用するため、環境の不一致問題を防ぐことができます。この習慣をつけることで、仮想環境の管理が格段に安定します。

事前の環境検証習慣

もともとWSL環境は一時的な開発環境という意識が強いため、あまり環境構築の手順について厳密に管理していなかったため、いつのまにやら .bashrc が書き換えられてしまいましたが、本来は、新しいプロジェクトを始める前に、以下の検証手順を習慣化することが重要です。

  1. PyCharmとWSLの一貫性チェック
    新しいプロジェクトを設定した後、簡単なテストパッケージをインストールして、PyCharmとWSL両方で認識されることを確認します。

環境検証コマンド(例)

# Conda環境をアクティベート
conda activate my_env

# 以下が全てConda環境内を指しているか確認
which python
which pip

# テストインストールと確認
python -m pip install pytest
conda list pytest

まとめ

WSLでConda環境を作成し、PyCharmから使用する場合の「静かな失敗」は、特にやっかいでした。
エラーメッセージが表示されないため、問題の存在に気づかないままプロジェクトを進行させ、後になって原因不明のトラブルに悩まされました。

このような問題を防ぐには、環境アクティベート後にwhich pipで使用されるpipの場所を確認する習慣(または確認ツールが良いでしょう)をつけ、可能な限りpython -m pip形式でパッケージをインストールするのがよさそうです。
また、定期的にWSLとPyCharm間のパッケージリストの一貫性を確認することで、潜在的な問題を早期に発見できますね。

Pythonの仮想環境は強力なツールですが、WSL側の管理がだらしないと、このような「静かな失敗」が発生して、自分の時間を奪ってしまいますので、注意が必要ですね!

Read more

ログを ちょこっと grep するツール "ちょこぐれっぷ" つくりました

ログを ちょこっと grep するツール "ちょこぐれっぷ" つくりました

こんにちは! 今日はちょこっとしたツールをつくりました。 ログをちょこっとgrepするツールです。もちろん無料。 chocoGrep - ちょこっとgrep!ログフィルタツールちょこっとgrepするならchocoGrep!「error or warning」と書くだけの簡単or/and検索。AIエージェントに渡す前にログを最適化。正規表現不要、インストール不要。chocoGrepQualiteg Inc. Cursor、Devin、Claude Code、ChatGPT——AIコーディングエージェントにエラーログを渡してデバッグを手伝ってもらう。もう日常ですよね。 でも、 * ログを全部貼り付けたら、AIの応答がやたら遅い * 「トークン制限を超えました」と怒られる * 大量のログの中から、AIが的外れな部分に注目してしまう そこで、つくったちょこっとgrepするためのツールです 名付けて ちょこぐれっぷ!chogoGrep! chocoGrepって何? ブラウザで動く、ゆるいgrepツールです。 ログを貼り付けて、検索ワードを入れるだけ。インストール不要

By Qualiteg プロダクト開発部
GPUを使った分散処理で見落としがちなCPUボトルネックとtasksetによる解決法

GPUを使った分散処理で見落としがちなCPUボトルネックとtasksetによる解決法

こんにちは! 複数枚のGPUをつかった並列処理システムを設計しているときCPUについてはあまり考えないでシステムを設計してしまうことがあります。 「機械学習システムの主役はGPUなんだから、CPUなんて、あんまり気にしなくてよいのでは」 いいえ、そうでもないんです。 推論中のあるタイミングに急に動作が遅くなったりするときCPUが原因であることがけっこうあります。 概要(5分で分かる要点) 先日GPUを使った並列処理システムで、予期しないCPUボトルネックが発生し、パフォーマンスが大幅に低下する問題に遭遇しました。 複数のプロセスが異なるGPUを使用しているにも関わらず、処理が極端に遅くなる現象の原因は、処理パイプラインの一部に含まれるCPU集約的な計算処理でした。 問題の症状 * 単一プロセス実行時:正常な速度 * 複数プロセス並列実行時:処理時間が数倍に増加 * GPUリソースに競合なし(nvidia-smiで確認済み) 根本原因 処理パイプラインにGPUに適さないCPU集約的な計算(データ前処理、統計変換など)が含まれており、複数プロセスが同じCP

By Qualiteg プロダクト開発部
Model Context Protocol完全実装ガイド 2025- 仕様変遷から最新Streamable HTTPまでの全て

Model Context Protocol完全実装ガイド 2025- 仕様変遷から最新Streamable HTTPまでの全て

こんにちは! 現在、LLM業界で破竹の勢いでひろまっているMCPについて、本日はとくに実装面について解説していきたいとおもいます。 MCP、MCPとひとくちにいっていますが、実は短期間でけっこう「標準」とよばれる仕様が変化しておりますので、仕様のバリエーションを順を追って解説しつつ、実際に実装をしていきたいとおもいます。 さて、MCPですが、2024年後半、Anthropicが発表したModel Context Protocol(MCP)は、AI分野における重要な転換点となりました。 従来、各AIベンダーが独自に実装していたツール呼び出し機能(tool useと呼びます)を標準化し、AIモデルと外部システムの連携を統一的に扱える仕組みを提供しました 本記事で、MCPの誕生から現在に至るまでの技術的変遷を詳細に追いながら、2025年時点での最適な実装方法を完全なソースコードと共に解説します。特に、仕様の変化に振り回されがちな実装者の視点から、なぜ現在の形に収束したのか、そして今後どのような実装アプローチを取るべきかを明確にしていきます。 第1章 MCPが解決しようとした問題

By Qualiteg プロダクト開発部
【出展報告】ASCII STARTUP TechDay 2025

【出展報告】ASCII STARTUP TechDay 2025

こんにちは! 本日、「ASCII STARTUP TechDay 2025」に出展してまいりましたのでレポートさせていただきます! ASCII STARTUP TechDay 2025 ASCII STARTUP TechDay 2025は、2025年11月17日(月)に東京・浅草橋ヒューリックホール&カンファレンスで開催された、ディープテック・スタートアップのエコシステム構築をテーマにした展示交流・カンファレンスイベントです。 秋の展示会は本当にいいですね 本日はとてもよいお天気で、涼しくて、展示会にはピッタリの気候で朝からルンルンでした。しかも午後からの展示会ということで、気持ちに余裕をもって朝の業務をこなしていたところ、けっこうすぐに昼前になり、あわてて現場へ。 浅草橋は当社からもわりと近いという立地の良さを甘く見ておりましたが💦、なんとか予定時刻前に到着しました。やっぱり、都心開催は本当にありがたいですね。 会場へ急いでいると、おなかが「ぐ~」と鳴り 「そういえば、朝食まだだったわ」 とおもったところに、なんと私の大好きなエッセンさん🍞のトラックがあるで

By Qualiteg ビジネス開発本部 | マーケティング部